諦念の世界
結騎 了
#365日ショートショート 235
カメラの向こうで、上司は性器を露出しながら繁華街をスキップしていた。
辺りにはゴミと吐瀉物が散乱し、貧民街とみまごう有様だ。誰かが窓ガラスを割り唐突に喧嘩が始まる。かと思えば酒盛りが開催される。誰も彼もが、事態を憂いながら喜んでいた。女性と子供はほとんど見当たらない。屋内で粛々と過ごしているのだろうか。
しかしあの上司、下だけでなく今度は上まで脱ぎ始めた。まるで一昔前のコントのようにネクタイを額に結んでいる。やれやれ、見ているこっちが恥ずかしい。会社でのあの威張り腐った様子とは段違いだ。
手元のビデオテープは順調に増えている。撮ったのは上司だけではない。金と権力に目がない政治家。偉そうに他人を裁くインフルエンサー。評判の悪い芸能人。ゴミ捨てのマナーが悪い隣人まで。彼らの痴態を余すことなくテープに収めていった。ここ数日、物陰に隠れながらカメラを回す技術だけはさぞ上達したことだろう。
なにを隠そう、俺は超能力者だ。周囲にはひた隠しにしてきたが、宇宙にまで影響を及ぼせる超パワーを持っている。この能力を、どれほど有意義に、かつ楽しく活用できるか。考えた結果、巨大隕石をぐんと引き寄せたのだ。腐った奴らが住むこの地球に向けて。
地球滅亡まであとたったの数日。突如訪れた世紀末に全世界は混乱し、秩序と文化は死んだ。一方、俺はハンディカムのビデオカメラを片手に日本中を飛び回っている。
上司よ。腰に手を当てて性器を前後に揺らしながら喜んでいる上司よ。覚悟をしておいてくれ。
隕石は、明日にでも逸れるのだから。
諦念の世界 結騎 了 @slinky_dog_s11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます