第1話 

『カキネカンパニー15周年の年に宇宙へ行こう!』


『先着で10万名に搭乗チケットが当たる!』


『さぁ、みんなも新しいフロンティアへ』


『誰でも幸せになれる世界へ。カキネ』


 最近建設された巨大なビルには横方向に目一杯広がったモニターが設置されていて、誰もが目にするし注目されるからこぞってたくさんの企業がCMを出そうとする。


 カキネカンパニーもその一つだが、今や世界的に見ても大きすぎるその企業はもはや日本一カ国には収まりきらないほどの莫大な利益を上げていた。


 今や聞かない日のない社名は、子供から老人までが愛用している玩具からジェネリック薬品などありとあらゆる商品を武器にして、民衆に根を張った。


「先輩カキネカンパニーに新卒で入社ですか? エリートですね!」


「最近役職手当が出るようになってな!」


 街を歩けばすれ違う社会人はカキネカンパニーの関係者で、学生は無利子のカキネ奨学金を借りているし、そもそも学校法人を持っているため学生もカキネカンパニーのステークホルダである。


「いやぁ、本当にカキネに染まりましたね。まったく」


 俺の隣に座って背広で缶ビールを仰いでいるのが警察関係者だと誰が思うだろうか。軽い口調で語りかけるのは、相嶋(あいじま)宗介。

 

「ああ。本当に。いつの間にかカキネだらけだな」


 俺は適当に返事をしてから、片手に持った缶ビールを一口。


「ああ。知っていますか? 最近は宗教がらみの事件が増えてきて大変なんですよ」


「宗教? こんなご時世に? それはまたどうして」


「いやいや。宗教なんていついかなるご時代にも姿かたちを変えて存在しているでしょうに。

 世界に憤りを感じて、望む評価が貰えない人たちが行き着く先が宗教で、

 その果が革命ですからね」


「いつの時代だよ。それは」


 民衆が望む世界を求めて、権利者を王を大統領を殺して革命を起こすが、

 望んだ世界を夢見ることが宗教ならしい。


「ともかく、宗教がらみの事件って面倒ごとが多すぎて例えば―――」


「まてまて。俺に捜査情報の漏洩をするなするな。

 俺は一般人だ」


「ですから、気をつけないといつの間にか信者になってますからね」


「それはない」


「って言ってる人から沼に浸かって。

 こっちから片手しか見えないくらいまで沈んだあとに、しまった。これは宗教だ! って認識するんですからね」


「何だそれは。

 経験談か?」


「ありふれた話ですよ。よくある。

 ああ。もうこんな時間になりました」


 相嶋の胸に収まっていた携帯端末が騒々しく鳴き出したところで、

 今の時刻が16時を回ったところだと気がつく。


「もうか。早いね」


「お疲れ様です。自分は戻って捜査の続きですわ」


「おいーす。おちかれおちかれ。

 非番の俺はお家に帰りまーす」


 と、二人してベンチから腰を上げ尻を叩くような仕草をしてから缶ビールを脇のゴミ箱に投げ入れて


「ないっしゅー」


「警官の恥だな」


「休憩時間は一般人ですからね」


 そう言いながら俺と相嶋は別れ、それっきり二度と会うことはなかった。

 

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ドゥルズ・プロジェクト 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

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