第2話 君はみんなのマドンナ②〜君の魅力に惹きつけられて〜後編〜

「ハルカちゃん!!」

「うわっ!何?」



私を見掛けては呼び止められ


振り返らせられた視線の先には――――




「ユヅキ君っ!?」

「一緒に来て!」

「えっ!?」




グイッと私の返事を聞く事もなく車に乗せられる。




「あっ!お疲れ様です。ハルキさん」

「お疲れ様です」

「それで、何?どうしたの?」

「ハルカちゃんにお願いがあるんだ!」

「お願い?何?」

「取り合えず話は後」

「えっ!?」




そして向かった先は、とあるスタジオに連れて来られた。



「ユヅキ君…待って…ここ……」

「俺が今、撮影しているドラマのスタジオ」



「……………」




やっぱりそうだ。


すぐに気付いた。


小学校の時、良く来ていた私だ。


気付かないわけがない。


スタジオセッティング。


撮影前か、もしくは撮影中の合間の休憩時間の状況。


スタッフの姿は見当たらない。



「…どう見ても見学って感じじゃないよね…?」

「えっ?」


「私…ユウ兄と小学校の時、スタジオ見学とか良く来ていたから分かるよ」


「そうだったんだ。じゃあ、単刀直入に言うよ。一緒に撮影協力してほしい!」



「……………」



「緊急でオーディションしてる時間なんてなくて、今回、監督の要望で台本に追加されて…俺と同じ高校生で女の子の役が必要なんだ」


「どうして…私…?」


「前に一緒にいる所が噂になっていて…ハルカちゃんが雑誌買ったあの日、かなり噂になって広がってて…」


「あー…」



「後、これ…ハルカちゃんだよね?」




私の目に飛び込んだのは、ミユキちゃんと撮った写真撮影現場だ。



「わっ…!」



私は隠すようにしては、本をユヅキ君から取り上げ背後に伏せるように隠す。



「雑誌、偶々、スタッフさんが見ていたから気になって見たら…君の姿。監督も君を探していたんだ」


「…しないよ。例え…ユヅキ君のお願いでも私はしない!」


「ハルカちゃんっ!!ハルカちゃんは自分の魅力に気付いていないんだよ!」


「魅力なんて、そんなのどうでも良いよっ!私は、好きでこんな姿に生まれてきたんじゃないから!私は…私の人生は自分で決める!」



私は去り始める。




グイッと引き止められる。



「離してっ!」

「俺は仕事のパートナーとしてお願いしてるんだよ!」




ドキン


普段のユヅキ君からは想像つかないくらい、真剣な眼差しで私に言った。



「俺は仕事とプライベートは分けてるつもりではいるけど…今回に関しては普段の俺でハルカちゃんに頼むつもりはないよ!」



「……………」



「確かに普段から、ハルカちゃんの魅力は言っているけど…業界はビジネスなんだよ!先輩、後輩の関係は厳しいんだ!無理に強制はしないけど、だけど撮影は、すぐに控えている。時間がないんだ」



「………………」



「…ハルカちゃんの協力が必要なんだ!もし、それでも協力出来ないって言うなら…俺は、このドラマの話は断る覚悟だよ!」



「…待って…それって…また…撮り直し…」



掴んでいた手を離す。



「なり兼ねないだろうね。俺、君を…立花ハルカという一人の人間をビジネスのパートナーとして説得するように約束をしているんだ」


「…ユヅキ君…」



「君は一人の人間。業界の人達の目に止まるというのは、それだけ惹きつける何かがあるからなんだと俺は思う。いつも言っているけど…君の為に出来る限りサポートするし、もちろん兄貴にも協力してもらうけど…」



「…………………」



「だから…協力してほしい…ハルカちゃん。…立花ハルカとして…一人の人間として、一緒に仕事してください!お願いします!」




ユヅキ君が、頭を下げた。


ここまでして頭を下げてまで私にお願いなんて…




これはビジネス。


遊びなんかじゃない。



普段のユヅキ君とは違う


15、16歳の男の子が


一人の人間として


社会人として頼む。



マネージャーのハルキさんを通してではなく


自ら自分で頭を下げている。





「ユヅキ君!辞めて!頭上げて!」



「………………」



「ユヅキ君!お願い!分かった!分かったから!だから…お願い…!」



私はユヅキ君の両頬に触れ顔を上げさせる。




「撮影…協力するから…」




両頬に触れた手を離し、私は抱きついた。




「…ハルカちゃん…」


「一緒に…撮影させて下さい…一人の人間として…ビジネスパートナーとして…」


「…ありがとう…無理に言って…頼んでゴメン…ハルカちゃん…」


「ううん…」



私達は抱きしめ合った。





そして、ドラマの撮影に協力せざるを得なくなり―――





「ハイカットーーっ!」



スタジオ中に響き渡る監督の声。





「………………」




「ハルカちゃん大丈夫?」




心配そうに言うユヅキ君。




「…うん…まあ…」

「おいで」




私の手を取り、椅子に腰掛けさせる。




「そこにいて」

「うん…」





少しして―――――




「はい」



飲み物を持って来てくれた。




「ごめんね。こんな形になっちゃって」


「ううん。あそこまでユヅキ君にされたら断れないよ。でも、こうしてユヅキ君色々としてくれてるしユヅキ君がいるから頑張れるんだと思う」




スッ


私の両頬に触れると優しい眼差しで私を見つめる。





ドキン




《わ…疲れているのに、この胸の高鳴りは何!?》




私の胸がざわつく。





「わ…その反応、何?まるで、恋する女の子だよ」

「ええっ!!」



私は押し退け両手で顔を覆う。




「クスクス…そういう俺も、ちょっと恋する男の子になってたかも?」


「えっ?」



「なんとなく…だって無理矢理だったし…こういう現場に慣れていない一般人の女の子を巻き込んで、協力してくれて頑張っている姿見たら、キュンとなったのかも」



「…ユヅキ君…」





そんな私達の姿を見るスタッフの人達。





「こうして見ると可愛いカップルみたい」

「分かる!」

「なんか微笑ましいよね?」


「本当、あれだけの魅力なら男女問わず業界の人間は納得してくれる雰囲気なのに。もったいねーよな?」




色々な好印象の意見が飛び交う。





「君、立花ハルカさんと言ったね」

「はい」

「君に是非、業界に入ってもらいたい!」

「えっ?」

「君には不思議な魅力があるんだ!」



「………………」



「君は絶対に素質がある!検討してみてくれないか?」




その日の帰り。


ハルキさんの運転で送ってもらう。



「ありがとうございます。お疲れ様です」

「お疲れ様です」


「ハルカちゃん、さっきの監督の話、良く考えた上で良いからね」


「うん…」


「でも…前から言ってるように、ハルカちゃんは、やっぱり何か不思議な魅力あるんだよ。それじゃ、おやすみ」


「うん、おやすみ。ハルキさん、ありがとうございました」


「いいえ」




私達は別れた。





結局、業界入りは、しなかった。


ただ、ユヅキ君と共演したきっかけで、声がかかるようになり、私の存在は幻のカリスマ的な女子高校生となるのだった。


業界入りはしないけど、私を必要としている時、協力はするようにし、今の暮らしを壊さないようにしようと…





ある日の休日―――――




「ハルカーー、出かけるぞーー」



カチャ

部屋のドアが開く。



「えっ?何処に?」


「リクエストあるならどうぞ。ないなら、俺が考えた兄妹デートコースで」


「兄妹デートコースって…」


「兄妹だろう?」


「そうだけど…取り敢えず準備する」

「ああ。自分の部屋で待ってるから声かけてくれ!」

「うん、分かった」




そして、私は準備をし、兄妹水入らずで出かけた。




その途中――――




「ハルカちゃん!」

「あっ!ユヅキ君!」

「ユウヒさん、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様。ユヅキ君」



そしてユヅキ君の隣にはマネージャーでもある、お兄さんのハルキさんの姿。



「お疲れ様です。ハルキさん」

「お疲れ様です」



私達は、お互い頭を下げ、私はユヅキ君と会話をする。





「お疲れ〜!」

「お疲れ〜。今日お仕事は?」

「今日は、オフだよ」

「そうなんだ」

「うん。ハルカちゃんは?」


「ユウ兄とデート。ユウ兄が出掛けようって言うから仕方なく付き合ってあげてる」



コツンと小突かれた。




「おいっ!」

「事実でしょう?」





そんな会話をしつつ、ユウ兄とハルキさんはちょっと離れた所で何やらコソコソ話をしている。


どうやら二人も仲が良いようだ。


でも、何か様子がおかしい。





「ねえ、ユウ兄とハルキさん怪しいんだけど?」

「実は二人、そういう関係で……」

「えええーーっ!!」


「嘘だよ!真に受けないの!さっきのリアクションカメラに納めたいくらいだよ」



ユヅキ君はクスクス笑いながら言う。



「辞めて!」


「ハルカちゃんが彼女だったら毎日が飽きなくて楽しそうだね」


「えっ?どうして?」


「冗談も真に受けるから。リアクション良いし」

「私は見せ物じゃないです!」


「はいはい。そうでした。でも、一応、女優さんだから」


「女優さんでも見せ物でもないし。ていうか、私、女優さんになったつもりはないよ」


「カリスマ女優」

「いいえ、影の女優です。レンタル女優」

「あっ!女優って認めた!」

「ち、違います!」


「ていうか…レンタル女優のネーミングもすごい発想だね」


「えっ?そう?でも、ある意味レンタルでしょう?普通の女子高生だし」


「確かに…普通の女子高生。だけど、俺も普通の男子高校生だよ。まあ、意味合い的には合ってるかもね。それでレンタル料いくらなの?」


「いくらかな?仕事によって金額変わるんだ」


「ハハハ…変わるんだ!じゃあ…ラブシーンは、高額なのかな…?」




スッと私の手を取り、もう片方の手を私の片頬に触れる





ドキン…


仕事モードになったと思われる、ユヅキ君の表情に私の胸が大きく跳ね、ざわつく。



「ユヅキ…君…?ま、待って!ラ、ラ、ラブシーンって…」



ユヅキ君の表情が、フッと変わる。



「今、変な想像した?」

「し、してないよ!」

「したでしょう?」

「してないってば!」




グイッと肩を抱き寄せるユヅキ君。



ドキッ

真横にあるユヅキ君の顔に胸が高鳴る。




そして―――――



「立花ハルカという女性を全て独り占めしようかな?」




ドキーーッ

その言葉に一気に体が熱くなった。



真剣な眼差しのユヅキ君。


至近距離にあるユヅキ君の顔。




「!!!!!」



勢いでキスする寸前の距離。




「うわ…その反応素直過ぎでしょう?」


「ユヅキ君、仕事モードになると人が変わるから!普

段とのギャップが…」


「そう?じゃあ、普段の俺が良い?」


「いや…どっちが良いとかの問題じゃないけど…どっちもユヅキ君だし。ていうか…仕事モードに入るユヅキ君は男らしくなるっていうか…違う意味でドキドキする」



「えっ?」



パッと離れる。





「…?…ユヅキ君?」



なんとなく顔が赤いようにも見える。



「顔、赤いよ?」

「き、気のせいだから!」

「そう?じゃあ、そういう事にしとく」



《可愛い♪》



そう思う自分がいた。



「ユヅキ、行くぞ!」

「ハルカ、行くぞ!」


「「はーい、じゃあね!」」



私達は同時に返事をし、別れた。







〜 Yuzuki side 〜




この時は まだ気付かなかった


彼女に対する想いに


彼女と出逢って


業界に入らないでいること


カリスマ的にいる存在を


疑問に抱く





――― だけど ――――





このままでいてほしい……



そのままで過ごしていてほしい……



今のままでいいから


俺の


俺だけの彼女であってほしいから――――





――― そう ―――




――― 俺は ―――




――― 彼女を独占したいと ―――









〜 Haruka side 〜



彼と出逢って


次々に起こる奇跡


業界入りなんて


絶対にしないって……



そう決心している


今も尚 継続だけど


本当にこのままでいいのだろうか?


そう 思い始めていた……





――― だけど ―――




業界入りなんてしたら


きっと もっと多忙になるだろう…?


そう思っていた



それに自分の時間もなくなるくらいなら


現状を保っていたいと――――




普段の高校生活


普通に恋したい


今はまだ気付かなかった


彼に対する思いに――――――






「ユウ兄、ハルキさんと、かなり話し込んでる感じじゃなかった?」


「あー、色々とな」


「ふーん」




そしてユウ兄と再び兄妹水入らずで出掛け楽しい時間を過ごす。




「ユウ兄、今日はありがとう」

「お礼を言うのは、まだ早いぞ!」

「えっ?」




ユウ兄は家とは逆方向に車を走らせる。


向かった先は、とあるスタジオだ。





「何?どうしたの?」





車のドアが開く。




「お手をどうぞ。お嬢様」

「えっ!?ユヅキ君!?」




私はユヅキ君に手を迷わず握る。


私達は手を繋ぎユヅキ君に連れられるまま――――




「どうぞ」



ドアが開く。



次の瞬間―――――



パンパン……


クラッカーの音が響き渡る。




「えっ!?」



辺りを見渡すと、私が今までお世話になった人達の顔触れが揃っていた。




「あの…」



状況が分からない。




そして、ミユキちゃんが花束を渡す。




「本当は、もっとオシャレしたい所だけど、堅苦しいのよりも、ラフな格好で良いって事だったから。HAPPY Birthday ハルカ」



「!!!!!」




そう―――



今日は私の誕生日だ。


すっかり忘れてた


涙が出そうになった


サプライズだ



私は沢山の人達に囲まれて誕生日パーティーを楽しんだ






ある日の事だ。




「ハルカちゃん!」

「うわっ!ユヅキ君っ!」



学校の正門前にいるユヅキ君の姿。


ざわつく周囲の中、



「どうしたの?」

「ちょっと…取り敢えず兄貴の車に乗って」

「あ、うん…」



私は言われるがまま車に乗る。




「お疲れ様です」


「お疲れ様です。すみません、ハルカさん突然に。一刻も早く報告しないといけない事だったので。ユヅキもすぐに学校行こうと言って」


「そうなんですね。それで一体……」




「仕事の話です」

「あ、はい」

「弟のユヅキと共演の依頼です」

「ユヅキ君と?」

「それで、今から本題です」



「はい」


「連ドラの依頼なんですが、都内ではなく地方に行く事になります」


「地方…ですか?」

「はい。学校もしばらくお休みを頂く事になります」

「そうなんですね。それで?」



スッと台本を渡された。



「こちらは私が預かった台本です」




私は目を通す。




「………………」



言葉を失った。



出だしから、まさかのキスシーンだ。


どうやら、歌手を目指している女子高生の話のようだ。



「この設定からいくと、もしかすると…CD出すことになるかも」


「えっ!?」


「役柄、限定アーティスト。よくある話だし。まあ…分からないけど…ないわけじゃない設定だよね」


「そうだよね…」


「どうされますか?ハルカさん」

「…やってみます!」

「えっ?」

「ハルカちゃん」

「やらせて下さい!」

「分かりました。では、そう伝えておきます」

「お願いします」





そして、撮影が始まる。



「ハルカちゃん」

「何?」

「明日のシーンなんだけど」

「うん」



「………………」





言いにくそうだ


大体の検討はつく


ファーストキスの私


唇にしても良いの?


そんなところだろうか?




「良いよ」

「えっ?」

「普通に唇にして良いよ」

「ハルカちゃん」

「凄く言いにくそうだったから言ってやった!」


「言ってやったって……ていうか…ハルカちゃん超能力者?」


「えっ?」

「心詠めるの?」

「詠めたら凄いよ」



私はクスクス笑う。




「私、仕事は選んでするものじゃないって思うんだ。やってみないと分からないって思うようにしてるんだ」


「…ハルカちゃん…」


「最初は戸惑いとかあった。でも、今を楽しもうって。分からない事ばかりで迷惑かけたりするかもしれない。だけど、逃げないで頑張ろうって」




「………………」



「女優さんも俳優さんも色々な経験を積み重ねて、沢山、演技しているからこそ良い作品が出来てるって。こんな役出来るわけないって。でも、やらないまま諦めるのって何の為に業界の人間になったんだろうって…そう思う自分になりたくないから」



「ハルカちゃん…」


「ユヅキ君は、私よりも経験しているんだから良い演技をみんなに見せてあげなきゃ駄目だよ」


「…ハルカちゃんには敵わないな…本当、カリスマだね」


「どうかな?」



私達は笑い合う。





―――― 次の日 ―――――




「ハイカットーーっ!」

「良いねー。自然な雰囲気出てるね」



そして、ドラマの撮影の設定では、歌を唄うというシーンもあり、ボイトレしながらも、ハードスケジュールとなっていき、CDデビューをする事になる。



弱音なんて吐いてられない。


そう自分に言い聞かせていた。





――― だけど ―――





「ハルカちゃん」

「あっ!ユヅキ君」

「無理してない?」



ギクッ



「えっ!?」




――― 図星だった ―――




「ハードスケジュールだから。眠れてる?」

「うん!大丈夫だよ!」



笑顔で答えた。



「…そうか…それなら良いけど…」

「心配しなくても大丈夫だって!」



「………………」



「…ユヅキ…君…?」




グイッと抱き寄せられた。



ドキン


胸が大きく高鳴る。





「無理にして笑顔つくんなよ!」




ドキン…





「…ユヅキ…君…」

「ずっと役になってなくても良いから…」



「………………」



「立花ハルカに戻って良いから」



「……………」




抱き寄せられた体を離すと、両頬を優しく包み込んだ。




ドキン



「ユヅキ…君…」


「ハルカは、役柄で歌わなくても、ハルカのままで役入りした方が良い。役で歌うハルカは…力入りすぎだから…」


「…でも…」


「大丈夫!ハルカはカリスマ女優だからハルカのままで肩の力を抜いて撮影した方が良いんだよ」


「…ユヅキ君…ありがとう…」


「後…一人で考え込まなくて良いから」


「えっ?」


「俺の前だけは弱音吐いて良いから。ハルカは、今、凄く無理してる」





見透かされてる気がした


泣きそうになった


優しさに甘えそうになった





「俺の前だけは、本当の自分で立花ハルカという人間になっていいんだよ」




ユヅキ君の胸に顔を埋める私の頭を撫でてくれた。




そして、これを機に撮影は順調に進み無事に全部の撮影が終わった




それから、CDは、オリコンチャート一位を見事に取り、しばらくは独占した。




ある日の事――――




「立花ハルカさんですよね」

「はい」

「私、こういうものです」



名刺を渡される。




「あの……」


「あなたに是非、お会いしたいという方がいらっしゃいます」


「えっ?」

「お付き合いいただけますか?」

「あの…急に言われましても…」




その時だ。




「ハルカちゃん」

「ユヅキ君」



私達を見るユヅキ君。



「あの…どちら様ですか?」

「私、こういうものです」



ユヅキ君にも名刺を渡す。




「………………」




「あの…どういったご用件でしょうか?彼女に何の御用ですか?」


「彼女に是非お会いしたいという方がいらっしゃいまして同行をお願いしていた所です」


「カリスマ的な彼女とはいえ、勝手な行動は辞めて頂きませんか?彼女のお兄さん、もしくは俺のマネージャーにでも話を通して頂く事は可能のはずです」


「ユヅキ君…」


「すみません。それでは後程、詳しくお話に伺います」





そう言うと男の人は去った。




「ユヅキ君…ありがとう」

「…いや…ゴメン…勝手な事して」

「ううん」


「この名刺だけど…本物かも怪しい所だよ。事務所の契約、ハルカはしていないし、誰の許可も周囲の許可もなく怪しい所に連れて行かれても困る」


「えっ?」

「一応…これ、SAKURAIさんの事務所の名刺」

「えっ!? SAKURAIさん!?」

「うん、だけど…業界は甘くないから」

「…そうか…ありがとう!」

「…ハルカは…俺の目の届くところにいてほしいの!」




ドキッ



「えっ!?ユ、ユ、ユヅキ君!?」



「………………」



「…ゴメン…」

「ううん…それより、時々、呼び捨てにしてるよね?」

「えっ?あ、うん。気付いてたんだ」


「気付くよ。私も、ユヅキって呼んじゃおうかな?二人きりの時だけ」


「ハルカちゃん!」



顔を赤くし恥ずかしいような照れてるような困った顔のユヅキ君の姿が可愛く見える。


私達は騒ぐ中、帰る事にした。





その後、私はユヅキ君のお兄さん・ハルキさんの付き添いで一緒に事務所に行く事にした。


マネージャーとして、いつもユヅキ君のスケジュールを管理している為、心強いのもある。


それに、ユヅキ君からのお願いがでもあるから―――





「えつ!?本格的に、アーティストとしてCDデビューですかぁっ!?」




歌うのは確かに好きだけど


だからと言って


CDデビューとか


業界入りしようとは


思っていない…



「返事はすぐにとは言わない。検討してみてくれないか?」


「考えさせて下さい」




そして事務所を後に帰るのだった。





数日後、ユヅキ君と待ち合わせをした。



「CDデビュー!?」



ユヅキ君に話をした。




「うん…」

「ハルカは、どうしたいの?」

「私?私は……そんなつもりないから…」

「そうか…」


「だって元々、業界入りとかって考えてなかったから」


「確かに最初は…俺ももったいないとは思っていたけど……」


「うん…」


「でも……今は……」

「今は、何?」



「………………」



「ユヅキ…君?」



顔をのぞき込むようにする私。




グイッと抱きしめられた。





「わ…ユ、ユヅキ君!?」

「今は……嫌かも…」

「えっ!?」


「多分…俺…いや…多分じゃない。俺、ハルカを独占したいから」




ドキーーン


大きく胸が高鳴る。



「ど、独占って……」

「ハルカの事が好きだから」




ドキッ


私はユヅキ君から意外な台詞に驚くのと同時に胸が大きく跳ねた。



「ユヅキ…君…?」


「…ご、ゴメン…えっと……」



慌てて離すユヅキ君。




「ハルカの好きなようにして良いと思うよ」

「えっ?」

「CDデビュー。ハルカの人生だから」

「ユヅキ君…」

「じゃあ俺はここで」

「えっ?あ、うん…」



私達は別れた。





それからユヅキ君とは会う事がないまま月日だけが過ぎる。


ユヅキ君が多忙になったからでもある。


そして、そんな中、CDデビューの件は断った。




「ユヅキ君…元気にしてるかな?」




気付けば、ユヅキ君の事ばかり考えている自分がいた。







ある日の事、私は学校帰り、用事で寄り道をしていた。




「かーのじょ!」



突然声を掛けられた。



「はい」

「君、カリスマ女優の子でしょう?」

「えっ?」


「最近、テレビで見ないけど…やっぱり生で見ると、更に君、可愛いね?せっかくだから、もっとチャンスあげればいいのに…そうだ!ちょっと、今から付き合ってよ」


「えっ?」


「ごめんなさい…もう帰らなきゃ…」

「えっ?そうなの?付き合い悪いな〜。じゃあ…家まで送るよ」

「いいえ、大丈夫です」

「良いじゃん!」




グイッと肩を抱き寄せる。





「やだ…ちょっと困ります…離して下さい」



相手は強制的に連れて行き始める。



「帰るなら良いじゃん!送るって言ってんだし」




《やだ…何?この人…怖い…》



その時、相手の携帯が鳴った。


相手は、渋々出た。


その瞬間の隙を狙い逃げる事にした。




「あっ!くそっ!逃げたっ!悪い!後で、また掛け直す」





相手が追ってきているのが分かった。





《ヤバイ…!捕まる!絶対に追い付かれる!》

《足に自信ないし》





私はゲームセンターに逃げ込む。




《どうしよう?警察》

《でも、なんて言おう?》





私は、ふと携帯を見る。




ドキン



《ユヅキ…君…?》



メールが入っていた。




『大丈夫?今、何処にいる?』




「えっ?これって……」



明らかに私を見掛けたと思われる内容だった。




♪〜


『場所教えて!』



♪♪〜


『ゲームセンター』

『プリクラコーナー』



「ゲームセンター…プリクラ…コーナー…って…」






―――― お願い ――――





奇跡が起きるなら





彼に会わせて―――――





―――― ううん ――――





彼に……逢いたい―――――






「………………」





しばらくして―――――




スッと背後から抱きしめられた。



ビクッ




「ハルカ見つけた♪」




ドキン……





「…ユ…ヅ…キ……?」


「…正解…」





振り返らせ、しっかりと抱きしめてくれた。



「……良かったぁ〜……」





お互い同時に口を開いた。


二人は体を離し見つめ合い微笑み合う。




「大丈夫?」


「うん、何とか…でも、正直怖くて仕方がなかった…ユヅキに会えて良かっ……」




再び抱きしめる。





「俺も、ハルカに会えて良かった…すっごい心配した」

「…ユヅキ…」


「ともかく、ここを出よう!まだ近くにいるかもしれないけど」


「うん」




そんなユヅキを見てみるとグラサン掛けて、帽子を被っている。


どうやら私服っぼいけど……でも……




《…これは…私服…?…それとも…衣装…?》




「ねえ…その前に…ユヅキ…その格好…は…衣装…?それとも…」




ユヅキはグラサンを外す。




「…………………」



「えっ…?」




《どうして外すの…?》




そんなユヅキは帽子のツバを後ろにした。




「…えっ…?ユヅキ…?」





何か…


嫌な予感がするんだけど…




「ハルカ…」

「…何?」


「ちょっと冒険しよう!手離したら駄目だよ?つーか、俺が離さないけど!」




ドキン…



私にキスをし、グラサンをかける。



「似合うよ。ハルカ!」



ドキッ


ニコッと微笑むと、



グイッと手を引っ張り一気に走り出した。


私の心の準備が出来ないまま――――


「ユヅキ君っ!?」

「嘘!?」

「キャーーッ!!」

「橘ユヅキぃっ!?」




案の上、すぐにバレた。

無理もない。

ここは、ゲームセンター内。



「女の子と一緒だったーーっ!」

「誰ーーっ!?」





大騒動だ。


私はユヅキにキスされて、次々に起こる出来ドキドキが収まらない。




「ドラマの撮影!?」



色々な声が飛び交う中、私は、余裕がない。




「乗って!」

「えっ!?」




車に乗るように促し、車に乗り込む私。


そんなユヅキ君も車に乗る。




「ユヅキっ!目立った行動するなっ!」



怒鳴る声がする。



「仕方ないじゃん!!緊急事態だったんだから!!ねっ!ハルカちゃん」


「えっ?あ、うん…」




《…ハルキさん…かな…?》



とは言っても、状況が飲み込めていない。


それを知ってか、ユヅキかクスクス笑い、グラサンを外された。



「安心して。ハル兄の車の中」



《やっぱり?》



「ハルカさん、ご無沙汰してます。大丈夫ですか?」




ミラー越しから見える顔。


間違いなくハルキさんだ。




「…ご、ご無沙汰してます。お疲れ様です。すみません…」



「いいえ。ご無事で何よりです」


「ありがとうございます。ユヅキ君のおかげで何とか逃れました」




頭をポンポンとするユヅキ君。



ドキン


優しく微笑み優しい眼差しで見つめるユヅキ君。





「で?どうするんだ?ユヅキ」

「えっ?」

「この後」

「あー、どうしようかなー?」

「一先ずハルカさんを送……」

「いや。良いっ!」



「「えっ!?」」



ハルキさんと私の同時の声。




「俺、ハルカちゃんと、もう少し一緒にいたい!」



「!!!!!」



「ユヅキ、ハルカさんの都合もあるだろう?すみません…ハルカさん…」


「いいえ。ユヅキ君、お誘いは嬉しいんだけど、私…制服…」


「あっ!そうだっ!ゴメン!ハルカちゃん!」

「ううん」

「じゃあ、一回帰ってデートしよう♪」



ドキッ


デートという言葉に胸が大きく跳ねた。



「それなら良いよね?まあ、無理は言わないけど」

「ううん、大丈夫!」




そして私は、一旦、家に帰り、出かけることにした。




ご飯を食べ腹ごしらえをする。


それから、人目のつかないような場所に移動し、楽しい時間を過ごした。



そして車に乗る前。


人目のつかない、とある店内を出ようとした私を




「ハルカ」



と、ユヅキが呼び止めた。



「何?」

「俺、しばらく仕事の量減らして業界から距離置こうと思ってるんだ」

「えっ!?」

「高校生だし」

「…そっか…」


「…それで…」

「うん」

「…俺とマジ(本気)で付き合ってほしいんだ!」



ドキン…



「えっ?」

「普通に高校生活する中、ハルカとの時間がほしい」

「…ユヅキ…」


「しばらくは色々と大変だろうけど、俺、ハルカの事、好きだし…考えといて。返事はすぐに……」




私は不意にキスをした。




「ハル…カ…」

「良いよ」

「えっ!?」


「私もユヅキが好きだから…会えない時間が長くて何してんだろうって…いつの間にかユヅキの事、考えてて…」


「ハルカ…」


「恋人として…お願…」



グイッと、私の言葉を遮るように抱きしめた。



「…ユヅ…」


そして、キスをした。



「改めてよろしく!ハルカ」

「うん…」

「一応、明日会見するから、その時、色々と話しておこうと思う」


「うん」


「余り、事は大きくしたくないけど…コソコソ付き合うのは嫌だから。卒業したら普通に業界には戻るけど…まあ、俺以外の優秀な俳優は山程いるから追い越されちゃうかも?」


「ユヅキなら大丈夫だよ!」

「ありがとう!ハルカ」



そして私達は帰る事にした。





その後、学業に励ながらも、仕事の量は減らし頻繁に出演をするのを控え、そっとしておいてほしいとユヅキは報告していた。




「ユヅキ君も大変だな?」

「えっ?」

「まあ、仕方ないよな?お前と同じ高校生だもんな」

「そうだね」

「で?お前らって付き合ってんの?」



「えっ!?」


「まあ…言わなくても、お前の雰囲気見ればわかるけど」


「えっ?」


「すっげー幸せオーラだし!相思相愛だもんな?」



「!!!!!」




「スタッフの中で噂になってたもんなー」

「噂!?」

「ビッグカップルーーって」

「えっ!?」

「そんな中、反対する人はいない」


「とうして?」


「それだけ、お前が魅力的だってことだろう?お似合いだよねーーって…良い噂で占めてた」


「そっか…」


「まあ、中には良く思奴もいるかもしれないけど、お前ら二人なら大丈夫だろう?」


「そうかな?」


「そうだって!つーか幸せそうな顔するなよ!」


「なっ…!べ、別に、そんな顔…」




ムニュ

両頬を摘まれた。



「…いたい…」



パッと離すユウ兄。




「ユヅキ君、お前に一目惚れしたんだって!と、いうより、してたの方が意味合い的に正しいかもな…初めて会った時からだし」



「えっ…!?それ聞いてない!」


「言うわけがないだろう?むしろ、言えない!仕事が、やりづらくなるだろう?」


「仕事?」


「共演している時もあるんだ。そんなのお前が知ってたら、お互い意識して仕事どころじゃなくなる」


「…あっ…!」






ユヅキと共演した記憶が蘇る。


ファーストキスは、ユヅキで、プライベートも体を寄せ合い密着感は半端なかった。


確かに想い聞いていたら意識もする。


友達として気にも止めていなかった。



それに、もし、本当に一目惚れだとしたら、色々と、つじつまが合う。


私に対する気配りとか優しさとか……





【俺の前だけは弱音吐いて良いから……本当の自分で……】





共演している期間中


ハードスケジュールだったあの頃


正直辛いって思っていた


あの日から




―――― ううん ――――





その前からユヅキは


私の事を遠くから


見守ってくれていたんだって―――――



これからも


ゆっくりと


仲を育んでいこうと――――――









〜 THE END 〜








ありがとうこざいました☆彡





















































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君はみんなのマドンナ(仮)〜君の魅力に惹きつけられて〜 ハル @haru4649

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