7%の窒息

櫛は静電気を起こす。


 鈴原は今、妙に気持ちが晴れていた。息がとてもしやすく感じていた。鼓動の速さと熱の温度はキスをしたときから変わっていないけれど。それでも頭は冴えていた。その透明な頭でなぜ自分はこうなっているのかを考えた。よくよく考えた。どうしてか、いつも後ろの裾だけがよれているのかを忘れて考えた。考えた結果、"辻くんは植物"という仮設を立て落ち着いた。つまり辻は光合成をしている。

「どうしよう辻くん。燃えちゃう」

「は?」

 鈴原にとって辻の声は、二階から聞こえる足音のようなものだ。環境音に近い。そんな訳で、鈴原の意識は辻の呆れた声には向かず、辻、光合成、植物、キス、というものにピントを当てていた。

「僕が廊下にいるときガス付けちゃだめだよ」

 彼は外が嫌いと言いつつ朝方から昼過ぎまでカーテンを開け外を眺めているし、今朝二人でゴミを出しに行った。今日はいつもより多く太陽をちゃんと浴びたから、普段よりも沢山二酸化炭素を吸って沢山酸素を吐き出しているに違いない。なんて、鈴原はぶつぶつ呟いてキスをする前みたいにスプーンを眺める辻を抱きしめた。

「辻くん。櫛で髪を梳かすときは俺を呼んでね」

 じゃないと、住む家が無くなっちゃう。


 カーテンの閉まる音。結露が水になって天井に染みついている。隣から聞こえる子供のなき声は、多分、辻よりかは静かで、ゴミ収集車の音楽よりかは大きかった。

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熱混ざり 懺悔 @_Ghaje

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