月曜日
日付が変わった暗い部屋の中で一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。時計を眺めるアンニュイな表情もやはり美しい。皆はその子を「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ。
しかし、そのマワリがそう呼ばれることはもうない。アルバイトをしてきたマワリも、「姪たちによろしく」と手帳を置いて出ていった。切なかった。ふと、二日前に家を出ていった姉妹たちを想う。正確に姉妹と呼べるのかは怪しい。暇つぶしで読んだ学校用の手帳に、生物で染色体のあれこれに苦戦しているというメモがあった。無理もない。マワリは、マワリたちは、無性生殖ができる生物だからだ。
お母さんになりたい。それは年相応に将来を考えられないメルヘンチックな女子高生の夢ではなく、目の前に迫る運命を見据えていたにすぎない言葉だった。
もうすぐその夢が叶う。マワリは産まれてから二日ほどで母になる。そして子たちに人間としてのマワリを託し、自分はこの世を去る。いままでもそうして世代を交代し、手帳たちを受け継いできた……らしい。だから三日前のマワリに腹を立てることもあったし、三日後のマワリに面倒事を投げることもある。そうやって、人間:
もうすぐこの体の内側から七、八人ほどの我が子が産まれてくる。その子らは二日前の「今いるマワリ」と同じように、皆でくじを引き、役割を決めるのだろう。そしてあぶれたマワリは家を出る。その先でその子らもお母さんになるのだろうか。どこかで人知れず増えているであろうマワリの分家は、誰も知らない。
そろそろバトンを渡さねば。自分の内側で蠢く感覚を愛しく思いながら、そのマワリは瞼を下ろした。
まわりずだいありー 七戸寧子 / 栗饅頭 @kurimanzyuu
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