日曜日
スポンジ片手に湯船を掃除する部屋着が一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。家事をこなす姿は、男子の夢そのもの。皆はその子を「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ。
泡を流し、栓をする。そこに湯を出して、「ふぅ」とため息をひとつ。ひと仕事終えて心地がいい。そこに飛び込む、玄関の開く音。ひと仕事終えたのは一人ではないらしい。
ラフな外着でもう一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。皆はその子も「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ。
「ただいま」
「おかえり」
二人のマワリは、同じ母のもとに産まれた子であった。容姿はそっくり。名前もマワリ。違うのは同一時刻に存在している座標と、大切そうに抱える手帳くらいであった。手荷物を椅子に置きつつ、「バイト用」と題された手帳を開く。
「お疲れ様、私ばっかり家にいてごめんね」
「ううん、役割分担だもの。さて、引継ぎ書かなきゃ」
アルバイトをこなしてきたマワリも、やはりマメに手帳をつける癖があった。と、いうよりも、それがマワリたちの言う「役割」のひとつであったのだが。
「お風呂沸いてる?」
「さっき入れ始めたけど、もう体洗ってもいいかも」
「ありがと。お風呂済ませたら出ていくから」
脱衣所に向かう背中に、部屋着のマワリはつい声をかける。
「本当に、ごめんね」
「そういう役割だもん。あなたも人生楽しみな?」
おもむろに時計に目を向け、はにかむ。
「もうすぐ“お母さん”だもの」
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