土曜日
目覚ましの鳴らぬ部屋でカーテンを開け背伸びをするセーラー服――ではなく、パジャマが一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。寝癖がついていても人知れずオーラを放つ。皆はその子を「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ――のだが、家でそう呼ばれることはない。
喉を潤しながら、手帳をめくる。「家事用」と銘打たれたそれは、マワリの性格というか、ある種の習性のようなものを表していた。土曜日には「学校用」の手帳はお休みなのだ。
「とりあえず洗濯……」
先日買い込んだ古着を、洗濯表示タグもちゃんと確認しないまま洗濯機に放り込む。白いものも色がついているのも全て一緒くた。どれもワンコインでお釣りがくるような値段の服だ。それはそれは膨大な量だが、すべてマワリのためのものだ。まだ高校生であるにも関わらず、マワリにはひとつ屋根の下で暮らす両親というものがいない。そういった現代日本では特殊な生活をしているからこそ、「将来はお母さんになりたい」と言っても進路指導の教師はそこを言い諭すことができない。
「あー、あとこっちも洗わなきゃ……」
特別に洗濯ネットに入れたのはアルバイトの制服。そういうわけで、マワリはアルバイトで生計を立てている。
「制服忘れましたで怒られたら、なんか嫌だもんな〜」
自分の像がアルバイト先の有象無象のセンパイに叱られて萎縮する様を想像する。あまりいい気はしない。ちょっぴり他人事に思いながらも、スタートのボタンを押した。
うごご、と音を鳴らして駆動する洗濯機の中を何気なく覗き込む。無駄な時間にも思えるが、マワリはこれが存外幸せであった。
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