金曜日
周りが弁当箱の蓋を開ける中、陽を浴びてあくびを漏らすセーラー服が一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。優等生は睡眠時間を削ってでも課題をこなし、その姿すら麗しい。皆はその子を「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ。
マワリは昼食に入るでもなく、机に伏して微睡んでいた。さらさらの髪が頬と机に挟まれてぐちゃぐちゃに絡まるのも意に介さず、教室内の雑踏から少し離れた世界でうつらうつらと意識をもてあそぶ。にぎやかな空気で寝ていても陰気な子だと思われないのはある種マワリの魔力がなせる技だった。
「ねーねー、マワリちゃん」
しかし、空気が読めないやつというのはどこにでもいるもので。騒がしくも楽しそうな雰囲気の中心にいた女子生徒に声をかけられた。マワリは気だるそうでありつつも不思議と不快感を与えない動作で顔を上げた。
「マワリちゃんさ、昨日カラオケいなかった?」
どうやら、近所のカラオケボックスで姿を見かけたらしい。当のマワリは生物の復習をはじめとしたタスクに追われて、遊ぶどころではなかったが。もちろんカラオケには行っていない。それでも、マワリはこういうときはこう答える。
「うん、いたよ」
「やっぱり!? マワリちゃんってどーゆーの歌うの?」
「えへへ、ナイショ」
「えー、じゃあ今度一緒に行こうよ」
そんな他愛のない話を、マワリはスケジュール帳に書き込む。歌なんてわからないけど、なんとかなるでしょう。
しかし、必死に勉強している間に同じ顔をした誰かがカラオケを楽しんでいたというのは少々羨ましくもあった。いいな、私も行ってみたかったな。また、あくびを漏らす。
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