第75話 三枝軍の軍旗たなびく

 また、要塞砲部隊ようさいほうぶたいも、火災対応により人員を割かれたこと、砲撃目標ほうげきもくひょうが人員であること、味方の戦車が展開したことで混戦状態こんせんじょうたいおちいり、友軍相撃ゆうぐんそうげきを恐れて発射のタイミングをつかみかねていたのである。

 そうこうしているうちに、装甲車部隊そうこうしゃぶたい大挙たいきょして押し寄せてくる.

 間髪かんぱつ入れずに、先ほど後退した戦車部隊が一気に間合いを詰め、師団機甲大隊しだんきこうだいたいが、先ほど通過した地雷原の通路の確保を目指して流れ込んできた。


 地雷原をはさみ、激しい戦車戦となった。


 その時、徒歩兵部隊とほへいぶたい煙幕えんまくを地雷原の奥へ次々と投げ入れると、要塞側の機関銃陣地が徒歩兵を捕捉出来ほそくできず、乱射を初めてしまった。

 しかし、実弾ではなく、レーザー交戦装置こうせんそうちの特性上、煙が濃いとレーザー光線が相手に到達せず、攻める側には有利に作用した。

 要塞側の機関銃が無効であると確認された後、徒歩兵部隊は地雷原に開いた通路から一気に第一堡塁だいいちほうるい内へ侵入しんにゅうし、もはやその流れを止めることは困難である。

 陣前に、比較的大きな部隊を配置したことがあだとなり、陣内の防御は予想以上に脆弱ぜいじゃくであったが、ここで先ほどまで遠距離に離隔りかくしていた砲兵部隊が陣地変換じんちへんかん(砲の置く位置を変えること)を完了し、第一堡塁後方へ一斉射撃を開始した。

 師団側は、この一連の混乱で、三枝軍の砲兵陣地の評定ひょうてい(発見して照準すること)に手間取り、師団砲兵郡しだんほうへいぐんによる応射おうしゃ(撃ち返すこと)が効果的にダメージを与えることが出来なかった。

 とにかく三枝軍の攻撃は、徹底して全ての部隊が連動して、一斉攻撃いっせいこうげきの体制を崩さずに維持されていたのである。

 先ほどの砲兵部隊の砲撃目標も、第一堡塁そのものではなく、師団の要塞守備隊ようさいしゅびたいが、第2堡塁へ移動する所を妨害していた。

 これがもし、三十分でも早く陣地変換じんちへんかんをしていたならば、師団砲兵郡に発見評定され、砲兵陣地への猛烈な射撃を受けていたことだろう。

 このような分刻みの移動や調整が、総合的に作用したことで、素人部隊しろうとぶたいとは思えないほどの驚異的な衝撃力しょうげきりょくをもって攻撃は間断かんだん無く続けられ、師団側の態勢整理たいせいせいり(部隊を再編成して立て直す行動)を妨げた。

 師団側は防戦一方となってゆき、まるで手品を見ているように、不思議と劣勢れっせいおちいるのである。


 それこそが、龍二の策である。


 一見地味ではあるが、この素人集団が頑強な要塞に風穴を開けるには、あらゆる「力」を集中運用しゅうちゅううんようしなければならない、そして、その力が効果的に作用するよう、事前に敵の分厚い防護力を、いかにいでおくかが重要となるのである。

 師団側は、夜間戦闘に焦点しょうてんを当てていただけに、この三枝軍の夕方の攻勢にはかなり動揺どうようを隠せずにいた。

 何故なら、冬のこの時期、日没にちぼつは早く、その明るさの変化は攻撃側には最も不利となるからだ。

 このような素人のような自由な発想に感じられるが、この日没までの短い時間で呼吸を合わせ、指揮官の意のままに部隊を動かすには、日頃からの綿密な訓練と信頼関係が必要となる。

 それを、たった一ヶ月で成し得たことは、尊敬に値するほどの偉業と言えた。

 この人心掌握術じんしんしょうあくじゅつが、つい先ほどまで行われていたなどと言うことは、師団側は予想すら出来ないことであった。

 龍二の予想は、的確に当たり続け、三枝軍の放つ砲弾は、第2堡塁へ移動を開始した師団守備隊へ次々と損耗そんもうを与えていたのである。

 前面には主力の戦車と装甲車のむれが、陣内じんないには既に侵入を開始した徒歩兵が、後方には砲兵にいよる猛烈な射撃が、それぞれ師団守備隊を苦しめ続けていた。

 少々、残酷なほどの猛攻撃は、龍二の狙いである。

 この日没までに勝敗を決する、と言う作戦そのものであった。


 攻撃は日没まで約2時間以上継続され、ついに第一堡塁の部隊旗掲揚塔ぶたいきけいようとうに、三枝軍の軍旗が、高々とかかげられたのである。


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