第55話 荒くれ中隊
北条「覚えているだろ、三枝1尉のかつての部下達のこと、そう、俺の原隊ってわけ!座間の54連隊第6中隊って言えば悪名高き荒くれ中隊だからな。三枝1尉の名前を出せばみんな直ぐ来てくれると思うぞ」
「なんだよ、水くさいな、北条のお願いってやつでも十分来てやるって」
北条の言葉を遮るように、突然話に加わってきたのはまさに座間54連隊第6中隊の仲間達であった。
・・・何となくではあるが、春木沢や雷条と波長の合いそうな下士官達であった。
北条「なんだよ、お前等、もう来てたのかよ・・。」
北条はちょっと照れくさそうにそう言うと、生徒会のメンバーに彼らを紹介した。
そしてまた生徒会も彼らに紹介していた時である。
「おお、これはまた可愛らしい士官候補生のお嬢さんがおられますなあ。」
徳川幸が自己紹介をした途端、メスの匂いに敏感な歩兵科の兵士達は、歩兵科らしい一般的なリアクションをした。
普通ならそれで終わりなのだが、国防大学校入校以来、まともに女性として見られていなかった徳川には、このセクハラギリギリの発言すら、とても恥ずかしく思えるものであった。
幸はそのまま赤面して、らしくもなくそっと龍二の陰にフェイドアウトしていった。
しかし、次に自己紹介した如月優の時には、更に大きな歓声が挙がった。
優「ち、違います、僕は男の方ですから!」
一瞬学生室内は静まりかえったが、次の瞬間部屋は爆笑の渦に包まれた。
美少女二人と勘違いした54連隊のメンバーは、少し残念な気もしたが、まあ若干、幸が悔しそうにしていることを除けば、概ね最初の交流は良いムードで進んでいった。
龍二「北条曹長、結局兄はどのような策を練って第2堡塁を陥落させたんですか?」
北条「お、珍しいな、中尉がそんなことを聞いてくるなんて。でもね、ダメなんですよ、口止めされてますんで」
龍二「え、だれか、この質問を予想している人がいたんですか?」
北条「ん、ん~、そうだな、他ならぬ三枝1尉本人だよ。」
それを聞いた龍二は一瞬耳を疑った。
なぜそんなことが考えられたのだろう、今回の北富士攻略は、間違いなく龍二の頭の中のみで練られた構想である。
ここに至る途中で、誰にも話してはいなかった。
不気味な感触を残しつつ、兄のことだから、案外本気でライバル視してくれているのではないか、と楽観的に考えるようになっていた。
兄の秘策はどんなことでさえ、家督を賭けて戦ってきた出来の良い弟には悟られたくない、そんな風に考えていたのではないか。
そう考えなければ先に進むことが困難に思えたからである。
そして龍二もまた、自分が考えている作戦内容と、兄啓一の考えが近いのではとの不安もあった。
同じ目標を攻略にかかり、攻め方まで同じでは流石に芸がないように思えたからである。
そんな時、54連隊の支援リーダーである郡司曹長が龍二にこんなことを聞いてきた。
郡司「ところで中尉、あれだけ堂々と師団長閣下に楯突いたんですから、何か秘策でもおありで?」
龍二「いや、全く考えていません。ただ、これからの訓練期間中、お願いがあります、訓練の最後には、彼らに持久力の付く訓練をお願いしたいのです。」
それを聞いた54連隊の一同は一瞬静まりかえった。
そして再び歓談が始まると、龍二は不思議そうな顔で郡司曹長の方を観る、すると
郡司「やっぱりね、血は争えませんね、お兄さんも草葉の陰でお喜びだと思いますよ」
龍二はそれを聞いた途端、やはり秘策というべき龍二の作戦は、兄と近いところにあったのではと考えていた。
この時、龍二の考えと兄啓一の考えは少し異なっていたが、確かに兄弟といえる発想とも周囲には思えた。
この時、54連隊のメンバーが考えていた、兄との近似性は、後日否定されることとなるが。
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