#13
先日レーヴェにやってきたシャルロッテ姫は、そのまま遊学という名目で王宮に滞在していた。あの時の密談のとおり、ユリウス王子との婚約を発表する時期や、亡国のアレクシス王子の処遇について算段をつけていたようだが、詳しいことは聞いていない。
「エグレットに何をしに行くんだ?」
「こちらで確認されている、龍脈の乱れによる被害が、エグレットにも広がっているらしいんだ。あちらの魔術師たちも上手く対処できず、救援要請が来た……と言いたいところだが、実際はこちらで被害を抑えられないから、外国にまで被害が広がっていると非難したいんだろうな。下手をすれば外交問題になってしまう。そちらを上手く収めなければいけないという問題もあるが……」
そこでアーネストは、言いにくそうに一度言葉を切る。
「その前に、あの時の二人組だ。彼らは、シャルロッテ様の命を狙っていると言っていた。また現れないとも限らない。君にばかり負担をかけて心苦しく思うが、現状、頼れるのが君しかいない」
「……わたしは今までみたいに戦えない。連れて行っても、役には立たないかもしれないぞ」
ユーディトから話を聞いたのなら、それも知っているはずだ。戦力にならない人間
は、いらないだろう。
「そうだとしても、俺たちにとって、君は最も信頼できる人間の一人だから。それに、魔術がなくても、君の剣の腕は、そこらの騎士よりも上だ。頼りにしている。……いや、君にばかり負担をかけない方法を、何か探すから……!」
必死な様子で訴えるアーネスト。だが、あの二人組の魔術師に対抗できる戦力は、現状エディリーンを除いていないだろう。それがわかっているのか、アーネストは顔を曇らせて目を伏せる。
「……駄目だな。結局、君には無理をさせてしまうのかもしれない。すまない……」
どうしてそんな顔をするのだろう。自分たちは互いの利益の元、契約を交わし、ここにいるだけだ。自分のことを損得抜きに気遣ってくれる人間など、ジルとベアトリクスだけのはずだった。それなのに、そんな顔をされたら、どう反応したらいいのかわからない。
「戦えなくなったわけじゃないし、言われなくても役目は果たしてやる。それでいいだろう」
素っ気なく言うと、二人とも困ったような顔をした。
今やっている実験も、手応えがないわけではない。もう少し時間があればなんとかなるだろう。
「それで、出発はいつだ?」
「一週間後の予定……なんだが……」
言葉を濁したアーネストに、エディリーンは怪訝な視線を向ける。代わりに、シドがその後を引き取った。
「護衛の人選で、ちょっと揉めててさあ。この前と同じ面子に加えて、魔術師をもう何人か入れようって話になってるんだけど。もちろん、ここの院生たちね。それが信用できるかわかんないんだよねー」
それはそうだろう。戦力としても、味方として信用できるかという意味でも。
「でも、この機会に力を示してやろうって腹みたいでさ。ねじ込まれそうなんだよ。護衛としてだけじゃなく、龍脈の乱れを解決するのに、人手もいるだろうってことでさ」
ほとほと困ったというように、二人とも溜め息を吐いた。
敵は手強いし、戦力は欲しい。上手く断る口実がないのだ。
「何も起きなければいいんだろう。あの二人組なら、こっぴどくやっつけたはずだ
し、またすぐのこのこ現れる可能性は少ないと思うが……」
とはいえ、油断はできない。また彼らと相対したり、暴走した精霊と戦うことになったら、今はエディリーンもまともに戦えるかわからない。けれど、可能な限りの対策を練って、事に当たるしかなさそうだった。
「わかっていると思うが、わたしの状態のことは、これ以上外に広めるなよ」
彼らを睨むようにして、エディリーンは釘を刺す。
「それは、もちろん」
敵に弱みを晒すほど、愚かではない。それはアーネストたちも心得ていた。
「けれど、困ったことがあれば言ってくれ。少しでも力になれることがあるかもしれないから」
「……」
エディリーンはそれには答えず、真摯な目で見つめてくるアーネストから目を逸らすのだった。
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