#5
「いつまで寝てるつもりだ。起きろ」
明るくなってきて微睡から覚めようとしている矢先、軽い衝撃と声で強制的に微睡から引き戻された。目を開けると、肩口を靴の先でつつかれていた。傷には響かないが、地味に痛い。
「……おはよう」
まだだいぶ早い時間のようで、空は宵闇の色と暁の色が混じっている。しかし、いつまでも眠っているわけにはいかない。最低限の休息さえ取れれば十分だ。
持参していた固いパンやチーズを少し腹に入れると、出立した。
昨夜は襲撃のどさくさで忘れていたが、エディリーンは再びフードを被り、髪を隠していた。
街道からはだいぶ逸れてしまっていた。太陽の向きと記憶にある地図を照らし合わせながら、南へ向かうルートを取る。
「最初にあんたを襲っていた奴らと、昨晩の奴らは同じ勢力か? また襲ってこられたら、たまったもんじゃないぞ」
歩きながらエディリーンは言う。
女性だと発覚してからも、彼女の態度や言葉遣いはあまり変化がなかった。どうやら、これが素の振る舞いであるらしかった。それにつられて、アーネストも騎士仲間に接するような気分になってしまう。
「それは俺にもわからない。しかし、今は砦に急がねば」
二人はかなり速足で道のりを消化していたが、それでも砦まではあと丸一日以上かかる。
「この先にこの辺り一帯の領主、ルーサー卿の居城がある。そこまで行って、馬を貸してもらおう」
「そいつは味方なのか?」
「いや、第一王子派だな」
それを聞いて、エディリーンは露骨に呆れた顔をした。
「砦を挟撃されたりする危険はないのか?」
ルーサー卿の領地は、砦の手前。味方に駆けつけるふりをして砦を攻撃することは容易に思われた。
「そんなに表立った裏切り行為はできないはずだ。第一王子派は、国王陛下のご意思とは別の所で動いているから。仮に何かするつもりだとしても、馬ぐらいは貸してもらおう」
王宮で生きるには、表面的に付き合う相手と、心から信頼できる相手を見極める必要があった。腹の底では良く思っていなくても、利用できるものは利用すればいいのだ。
やがて街道まで戻ることができた。戦場が近いこともあり、普段は商人や旅人が行き交っている道も、今は通る者は少ない。南下する者は自分たちの他は皆無で、逃げるように北に向かう者に時々すれ違うのみだった。
このまま道なりに行けば、件のルーサー卿の居城もすぐだ。しかし、歩みを進めていると、進行方向から軽い地響きと土埃が迫ってくることに気付いた。目を凝らすと、騎馬の一団が進んでくるのが見えた。
「なんだ?」
アーネストは、一団が掲げる旗を確認し、答えた。
「……あれは、ルーサー卿の旗だ」
アーネストの表情に緊張が走る。エディリーンは目を細めて、前を見据えていた。
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