#2
気が付くと、男は布張りの簡素な長椅子に寝かされていた。傷は手当されている。剣や持っていた荷物も、傍らに置かれていた。
痛む傷口を庇いながら身を起こすと、先程の少年と視線がかち合った。テーブルの向こうの椅子に腰かけて足を組み、室内なのに目深に被ったフードの下からじっとこちらを見据えてくる。
「……助けてくれたのか。改めて礼を……」
しかし、男が言いかけたのを少年は容赦なく遮る。
「起きたなら答えてもらおうか。これは何だ」
少年は顎でテーブルの上を指す。
それは、男が持ち込んだ、一振りの剣だった。漆黒の鞘は銀細工で飾られ、高価なものであることが一目でわかる。柄には彼らの暮らすレーヴェ王国王家の紋章である、有翼の獅子が刻まれていた。
そして、剣の下には様々な文字が書かれた円――おそらくは魔法陣――が描かれた紙が敷かれている。男が持っていた時には、剣からはなんとも言えない、触れていると気分が悪くなるような気配が漂っていたのだが、魔法陣のおかげか、それが緩和されているようだった。
「この剣にどんな術がかけられているのか、わかるのか?」
「聞いているのはこちらだ。答えろ」
少年はひたとこちらを睨みつけてくる。その視線は刃のようで、口調は有無を言わさないものだった。
男は思わず気圧され、姿勢を正すが、
「エディ。あまり人を脅かすな」
奥の扉が開かれ、一人の女性が現れた。寝間着のようなゆったりした衣服をまとい、怪我でもしているのか、動きがぎこちない。しかし、その目には力があり、顔に刻まれた皺は年齢を感じさせるが、その振る舞いからは迫力が感じられた。
「師匠……。おとなしく寝ていてくださいよ」
エディと呼ばれた少年は、呆れたような視線を女性に向ける。
「そんなものを持ち込まれて、落ち着いて寝ていられると思うか」
女性は身体を引きずるようにやってきて、少年の隣の椅子に、背中を庇いながら腰かけた。
「弟子の無礼は詫びよう。ともかく、話を聞かせてもらいたい。わたしは魔術師ベアトリクス。あれは弟子のエドワード。貴殿はもしや、わたしに用があって来たのではないか?」
「……概ね、その通りです」
概ね、という部分にベアトリクスは怪訝な顔をしたようだった。男は居住まいを正す。
「わたしは第二王子ユリウス殿下の近衛騎士、アーネスト・エインズワースと申します。このような形で押し掛けた無礼を、どうかお許しください。ベアトリクス殿、あなたの……いえ、あなた方のお力を貸していただきたいのです」
アーネストは、最後の部分を少年に目を向けながら言った。
ふむ、とベアトリクスは顎に手を当てる。
「話が長くなりそうだな。エディ、茶でも淹れてもらおうか」
尚もアーネストに厳しい視線を向けていた少年は、言われて渋々という風に席を立った。
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