第二十三話
「今年も《大赦の儀》が近づいてまいりましたね」
「舞か……舞なら、わらわより《花籠》の娘たちのほうが、よほど美しく舞うのであろうが」
「榊様」
「……言ってみただけだ。そう
そなたは《籠》を好まぬのであったな、と榊は橘を見上げ、薄く苦笑を浮かべた。醜いおとなの欲の巣窟だと、いつか橘は吐き棄てていた。
「だが、いつまでも《かみさま》に
「いかにも」
顔を見合わせて、不敵に笑い合う。
「《羽人》として生まれた年端もいかぬこどもを、《戦闘機》に育て上げ、空に放つ……今まで我々が持ち得た抵抗の手段は、かみさまと互角にたたかえる羽人だけだった。今、この時代に、わらわが帝になったのは、何かの運命かもしれぬな」
「抵抗など、生温いと?」
橘の問いかけに、榊は笑みを深めた。
「
きっぱりと、榊は言い放った。
「かみさまの影に怯え、一生、陽の光を浴びることなく雲の下に隠れて暮らす、そんな日々は、わらわの代で終わらせてやりたい。これから生まれてくる弟に、方舟の全てのこどもたちに、まだわらわも見たことのない、陽の光の美しさを、あたたかさを、見せてやりたい、味わわせてやりたい」
それが、わらわの夢だ。
「実現させるのは、あの男の
柊という名ではなくあの男という呼び方を選んだ橘に、榊は一瞬、違和感を覚えたものの、特に気に留めずに頷いた。
「ああ。もうすぐ完成する。《大赦の儀》が宣戦布告になるかもしれぬぞ」
うたうように榊は言った。空は未だ
最後に白い息をひとつつき、榊は、ひらいていた格子窓を、そっと閉じた。窓外の下方、焼け落ちた花籠の楼閣が、目の端を掠めるように映り込む。赦せ、と呟いて、榊は硝子を指先で撫でた。一部は更地となり、再建が、既に始まっていた。
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