第十三話
姉様は縁側に腰掛けて、わたしは
ひとつ ひとよに おうせのおはし
ふたつ ふみにて ちぎりをつづり
みっつ みそぎの みぎりはいつか
この楼で生きるこどもなら、ちいさな苗でも知っている唄だ。《花籠》で生まれた手鞠唄なのだという。《籠》の外では、これとは全く別の唄が口ずさまれているらしい。どんな唄なのか、確かめるすべを、わたしたちはもたないけれど。
よっつ よごとに つむぐはあそび
いつつ いとしは まことかうそか
むっつ むつめば たわむれならず
冬が来るのがこわかった。時間が経つことがこわかった。
姉様の唄に合わせて、いつまでも鞠をついていたかった。
姉様の隣で、蕾のまま、ずっと赤い振袖を着ていたかった。
ななつ なづけは かごのななれば
やっつ ややこは みずにさく
うたって。姉様、もっと、ずっと、うたって。そばにいて。いなくならないで。
――もしそれが、叶わないのなら。
手をとめた。転がっていく鞠を放り出して、姉様のもとへ、駆けていく。どうしたの、と席を立った姉様の細い腰に、わたしはぎゅうぎゅうと抱きついて、やわらかな胸に顔をうずめた。
ことことと命の音がする。着物越しに伝わる、あたたかな音。
「睡蓮?」
姉様の声が降る。そうっと顔を上げて、わたしは手を伸ばした。
ずっときつく締めていた心の結び目。それを今、わたしは解く。中にあるのは、闇だろうか、それとも、光だろうか。
重ねた唇を、そっと離した。浮かせていた踵も、頬に添えていた掌も、下ろして、距離をとる。わたしをみつめる姉様の瞳に、泣きそうな色をしたわたしの顔が映っていた。
ふわり。
唇を
一歩を踏み出す刹那、目の端に、鞠の影がとまった。てんてんと弾み転がった鞠は、桜の木の根もとで動きを
部屋へとつづく廊下を歩きながら、姉様は一度も振り返らなかった。一言も話さなかった。敷居を越え、その白い指が襖を閉ざすまで、繋ぎ合った手と手は、ほどかれることはなかった。
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