第十二話
露台の白い
夜空に、白い提燈は、よく映えるだろう。ぼくの提燈が明るいあいだ、瑠璃は、ここには来ない。来ないで、と思う。
「何を考えているのかな?」
穏やかな、柊の声が降る。涼やかな薬草の匂いが、ふわりとぼくを包みこむ。
「今朝、あなたの弟分が、ぼくのところへ来たよ」
「そうか」
「驚かないんだね」
「いつかは訪れるだろうと思っていた。君を一目見たならね」
くるりと反転する視界。柊は、ぼくを自分の体の上に乗せた。重なる胸。するりとぼくの中にさしこまれる長い指。
「君の瞳に宿る絶望は、否応なくひとを惹きつける力がある。誰もが少なからず抱える
「面白い理論だね。いつから詩人になったの」
「ふふっ、私は君のそういうところがとても好きだ」
引き抜かれる指。ゆっくりとぼくは体を起こす。柊は穏やかに微笑んでいる。とても
希望なんて、どうやって描けというの。
たとえこの先、ぼくの体に倡伎としての需要がなくなったとしても、ぼくはこの籠から解き放たれることはないのを知っている。実力があれば歳星のように、見世に留まり師匠としておとなになる。師匠の座につけなければ、悪趣味な金持ちのおとなに買い取られて、
繋がらない未来。ぼくはおとなにはならないだろう。おとなになるときが、ぼくの死ぬときだ。ゆらがない事実。この見世には、既に歳星という師匠がいる。ひとつの見世に、師匠は、ふたりもいらない。
立てた膝を、ゆっくりと畳む。いつものように、心をするりと解離させて、ぼくは柊の欲を
――ねえ、瑠璃。
閉ざした
――ぼくの、願いは。
「っ……あ」
柊の欲が、深くふかくぼくの中を
――だから、ね、瑠璃。
瑠璃はまだ、自由になれる。いつか、おとなになって、飛ぶことからも、たたかうことからも解放されて、ずっと、きっと、生きていける。
「皮肉なものだね」
ぼくを抱きかかえながら、柊が
「空を望む君に羽は与えられず、空を望まない彼に羽が与えられるなんて」
それでも、飛べなくなるまで生き延びられれば、瑠璃は、いくらでも未来を掴める。花屋にだって、何にだってなれる。
「今日も、あなたは、とてもお喋りだ」
握りしめていた手の力を抜く。柊に体を
――歩いていって、瑠璃。ぼくという最大のしがらみを、どうか、ふりほどいて。
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