第二話
「
木組みの扉を閉めきった《
方舟の中枢を
柊とおれのあいだに血の繋がりは無い。さらに言えば、この方舟に、おれと
「わかった」
おれは、ただ
予想はしていた。というより、自分が最もよくわかっていた。個体差はあるものの、総じて《羽人》の力は、永遠ではない。ただ、おれの力の寿命が、他の羽人よりも短かっただけの話だ。かろうじて速さは保っていたものの、徐々に飛距離が、瞬時に風の流れを
「他にも何機か異動があってね、組の再編がなされたよ。君は、
「鴎?」
「君は会うのは初めてだろうが、名前くらいは聞いたことがあるだろう。史上最年少で戦闘機になった少年だよ」
「では、早速任務にあたってもらおうか。鴎には、先に甲板で待つように言ってある」
*
社と甲板を結ぶ橋からは、方舟の半分が一望できた。
空は黒に近い灰色。重く垂れこめた雲は低くたなびき、
甲板は、方舟の前端に位置する、小さな広場のことだ。もっとも、こんな場所なんてなくても、風さえ掴めれば、おれたち羽人は、どこからだって飛び立つことができるのだが。
『特別なもの、専用のもの、規則や形式や区別をつくりたがるのが、おとなの習性だからね』
いつか柊が呟いた言葉を思い出し、すくなくともこの一点に関しては当たっているかもなと胸の内で頷く。
「
甲板へと続く階段に足をかけたところで、上から声が降ってきた。振り仰げば、甲板の柵に腰掛けて、こどもが、ひとり、こちらを見下ろしている。逆光で顔はよく見えないが、歳はおれよりいくつか下だろう、声はまだ高いままだった。吹き上げる風の中、暗灰色の空を背に、うしろでひとつにまとめた銀髪が、僅かな光にさえ、眩しくきらめく。
「おまえが、鴎?」
「はい」
よろしくお願いします、と彼はひらりと柵から飛び降りた。背中の刀が、かしゃん、と小さく音を立てる。光を受ける方向が変わり、白い頬が、その面持ちが、
そこに、鮮烈な青をみた。銀の
「鴉さん」
「鴉でいい」
「えっ、でも……」
「戦闘機として飛んできた年数は、おれとそう変わらないだろ」
行くぞ、と軽く地面を
(そのとき、おれは……)
羽人の力を失くしてもなお、生きていたいと思えるのだろうか。
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