第24話 素晴らしき愛をもう一度 再会、そして・・・・・・
「私達ももう行こっか」
美鈴が言う。
「うん」
愛海が途中からずっと項垂れたままだったのが後ろ髪引かれるが、青年も立った。
「噂通り、面白かったね」
美鈴は満足な様子だ。
「う、うん」
愛海のことを考えていて返事が鈍る。
「さっき、かっこ良かったよ」
「えっ」
意外な言葉が飛び出てきたから、青年は美鈴の方を見た。
「あれだから付き合うとか、こうだから付き合うとかじゃないんだ。なんか、こう。この人しかいないって感覚が大切なんだよーって」
美鈴がニコニコしながら青年の台詞を言う。
「ああ、本当にそう思ったから」
青年は言いながらまた思い出してしまう。
「ふふーん、惚れちゃった」
美鈴が聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう言った。
「えっ」
「やっぱり自然っていいですよね。空気がおいしい。でも、もう桜は見れないみたいですね」
桜並木の下を歩きながら、美鈴がそう言う。軽く伸びをして胸を強調させているようでもある。
「昔の人は四季を恋の移ろいに例えていたって知ってます。春に出会い、夏に燃え盛り、秋は飽きて別れて、冬は寂しく一人になる。なんか一年以内に出会ったり別れたり、昔の人って浮気性って感じですよね」
そして、またもや聞いたことのある言葉を話す。青年は立ち止まって、固まってしまった。
「私の担当する患者さんが言ってたんだけど、どうしたの」
美鈴が急に足を止めた青年の方を見て、様子を聞く。
「その人の名前は」
青年は居ても立っても居られない感覚になっていた。もしかしたら、もしかしたりする。
「えっ、美樹だけど。元々私の同期だった子なのよね。でも、ある時様子がおかしくなって、検査をしたら薬物反応が出て、問い詰めたら発狂しちゃって。それからは廃人になっちゃって」
ヒットだ。
「どこにいるの。今」
青年は凄い剣幕で美鈴に迫った。
「病院よ。入院している。それがどうしたの」
美鈴は青年の狂変ぶりに戸惑っている。
「知り合いなんだ。お見舞いできないかな」
ノーとは言わせない空気だ。
「えっ、そうなの。あの子、親がいないからお見舞いに来るような人もいなくて、そう言う事なら良いけど」
「ありがとう。明日行く」
有無も言わせない。
「って明日。そんな急に。どうしたの。すごい顔して」
美鈴は冷静に状況を分析する。
「お願い。すぐに会いたいんだ。明日、必ず頼むね」
しかし情報が多くてわかるのは一つだけだった。
「う、うん。ってちょっと待って」
青年にとっては大切なことなのだ、きっと。
青年は居ても立ってもいられずにその場を立ち去った。
別に今すぐ会う訳でも、会える訳でもないんだけど、ただ、ただ、落ち着いていられなかった。頭の中を整理しなきゃいけない。
青年はコンクリートの奥の暗い部屋にいた。そこには青年の心がいた。
「ねえねえ、僕はどうすれば良いの」
青年は心に聞いた。
「というと」
「どうすれば、美樹さんに会えるの」
簡単なようでそうでないことだ。
「明日、病院行けば良いんじゃない」
至極真っ当な答えだが、そういうことではない。
「そうじゃなくて、そうじゃなくて」
と、心は優しくなってこう言った。
「ちゃんと答えれば良いんだよ」
「うん」
「時間切れにならないように」
「うん」
「何を聞かれても」
「うん」
「何が起こっても」
「うん」
「大丈夫だよ」
「何が」
「君はもう進んでいるんだから」
「進んでる」
青年は心の言葉を噛みしめる。
「迷わずに、進んでる」
「迷わずに」
もう一度噛みしめる。
「だから大丈夫。頑張って」
「うん」
青年は進んでいった。
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