第10話 素晴らしき愛をもう一度 それは運命の出会い
ぐるぐる回る
くるくる回る
回って落ちると
迷路があった
「あれ、ここはどこだろう」
真っ暗だった視界を、瞼を押し上げることで開放した。光がスッと入ってきて、ここだよって情報をくれている。でも、青年にはわからなかった。そこがどこなのか。ここがどこなのか。
ぐるぐるっと見回してみる。見渡す限りに壁、壁、壁。道があって、空は青い。どこかの庭にいるんだと、そんな気がした。
くるくるっと確認する。道は四つに分かれてた。前と後ろと右、左。真っ直ぐに伸びていて、奥にはやっぱり壁がある。ここはどこなのだろうか。ぼんやり空を眺めてみた。
時々雲が流れてくる。真っ青な色をふわふわと白い消しゴムが滑ってく。でも、消しゴムなのに青が消えることはなかった。そりゃそうか。そう思いながらも消えない青が嫌になってきた。そんな事を思っていると雲が段々黒くなって、たくさんたくさん空を覆った。
雨が降る。そんな気がした。開けたこの場所ではずぶ濡れだ。だから青年は急いで進んだ。前の道を。とりあえず。壁に当たるまで進む。壁にぶつかったら適当に右か左に逸れた。走って走って走ると苦しくなってくる。ともかく屋根のある場所が欲しい。
あった。道の先に扉がついていた。壁ではなく扉が。屋根とかはなかったけど、とりあえず部屋らしきところだ。雨を凌ぐ何かがあるかもしれない。青年は扉を開けて中に入った。
中に入ると屋根があった。部屋だった。木の部屋だ。木の良い香りがした。暖炉が燃えていて暖かい。そして中央には机があった。机の上には紙と水の入ったコップがある。青年は気になったのでまず紙に書いてあることを読んでみた。
【問題。コップの中にはどれくらい水が入っているでしょう】
そう書いてあった。簡単だ。満杯だ。注ぎ過ぎだ。今にもこぼれそう。でも、ちょっとだけ考える。どれくらいってどう答えるべきなんだろうって。つまり、何mlとかで答えなきゃいけないのかなって。だとすると、コップが200mlだと思うから200mlくらいだ。くらい、じゃダメなのかな。1ミリ単位で答えなきゃダメなのかなって。コップは本当に200mlなのかなって。
ちょうど、喉が渇いてた。さっきいっぱい走ったから。だから青年は飲み干した。目の前にある水を。一滴残らず飲み干した。勢い余って滴り落ちる。コップの中身の量が変わってしまったけれど、これでもう迷わなくても良い。だって中にある水の量はゼロだから。
「美佐雄。どうだ最近は」
青年が勉強していると、彼の父親が中に入ってきた。
「パパ。急に中に入ってこないでよ」
正直、少しうたた寝気味だったのである意味助かっている。
「良いじゃないか、親子なんだから」
父親は反省するでもなく、そのまま青年の隣に座る。
「親しき仲にも礼儀ありだよ、パパ」
青年は今覚えたばかりの単語を言ってみる。
「ほーう、難しい言葉も使えるんだな」
父親は息子の成長に関心していた。
「当たり前だろ。これでももう立派な大人だからね」
そう、青年は今年で二五になる年だ。二十歳を超えれば立派な大人である。ましてやそれを五つも過ぎているのだから。
「そうか、そうか、立派な大人か。しかし美佐雄。立派な大人を名乗るんだったらしっかりと結婚をしなきゃダメだぞ」
父親が本題を切り出す。
「結婚。そりゃしたいけど、僕にはまだ早いよ。まだ浪人生だからね」
そう、青年はまだ受験中であった。何度もトライしているのだが、一向に大学に受からないのだ。
「その浪人だが、そろそろ諦めたらどうだ。お前には一生遊んで暮らせるほどの資産を残してやるんだ。勉強なんてしなくても大丈夫だ。もう二五になるんだろ。結婚をすべき年齢だ。たまには親の言うことも聞きなさい」
父親が少し厳しめの口調でそう言った。
「別に言うことを聞きたくないわけじゃないんだけど」
青年としては親には感謝している。聞けることなら、言うことは聞いてあげたいと思っている。
「なら、今度開かれる婚活パーティーに顔を出すんだ」
父親が優しい道化師になってそう言った。
「良いけどーー」
受験は続けるよ、と言いたかった。
「よし、パパとの約束だ。いいな」
しかしそれは遮られる。
「う、うん」
こうして、青年は婚活パーティーに行くことが決まった。
「で、今度婚活パーティーに行くわけだ」
今話しているのは昴だ。時々こうして勉強を教えてもらっている。
「そう。そうなっちゃった」
今は青年が婚活パーティーについて相談をしていたのだ。
「しかし羨ましいよな、お前の家庭。勉強しなくて良いだなんて。俺ならラッキーってすぐ勉強やめるけどな」
昴が昴なりの感想を言う。
「そんなこと言って、昴は勉強好きなくせに」
昴はストレートで大学を卒業している。
「別に好きって訳じゃないぞ。たまたまそこそこ出来ただけだ」
青年にとっては嫌味にしか聞こえない話だが、きっと青年には嫌味には聞こえていないだろう。
「良いよなー昴は。今や人気の家庭教師だもんな。ねえ、脳ミソ半分で良いから分けてよ」
昴の選んだ職は家庭教師だ。それもこれも青年のことが心配だったからなんて言えない。
「バカ、出来るわけないだろ。そんなこと考えてる暇あるなら、ちゃっちゃと勉強する」
今は青年の勉強を見ている時間でもある。
「するよ。する。ってかしてる。ここの問題がわからなくて」
青年は手に持っているドリルを見せた。
「何々。三角形があります。一本の直線を引いて三角形を三つにしました。その図はどれでしょう。あれ、なんか聞いたことある問題だな」
いつぞや仙人の脱出ゲームで出た問題の類似問題だ。
「たぶんこれだと思うんだけど」
そう言って青年が指差したのは、三角形の辺と辺に線が結んであるものだった。
「違うよ。ってかこれ小三の問題だぞ。これぐらい出来ろよ。答えはCだよ」
昴が言ったCは頂点から辺に線が引いてある。
「えっ、なんで」
「本当にお前は選択問題苦手だよな。この問題は最初の三角形を忘れないのが大切なんだ」
「あっ、本当だ最初の三角形と合わせると三つになる」
と、出来たのは良いが、突っ込み役の昴は突っ込まなければいけない。
「ってかお前、どこ受けるんだっけ」
「
「うん。最難関学校の医学部受けるんだよな」
「うん」
「こんな問題を間違えるのも勿論、やっていて間に合うと思うのか」
そう、青年は医者になりたくてずっと受験をしているのである。元々の青年の素質もあって納得の七浪生だ。
「ダメかな。ほら、この前昴が桃大は頭の柔軟なやつしか解けないもの多いから気を付けろって言ってたじゃん。だからほら、これ。頭の柔らかくなるトレーニングって」
因みに昴は桃大医学部を卒業している。
「はぁ。結論から言うとやらなくて良い。だったらまだ英単語覚えた方がましだ。まあ、休み時間に解く分には止めないが、勉強時間にすることじゃない」
「うーん、そっかぁ。了解」
物わかりが良いのは青年の良いところである。
「ってもうこんな時間か。じゃあな。ちゃんと勉強しろよー」
「はーい、昴も頑張ってねー」
その日はそれで終わった。
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