第9話 会話の極意 エピローグ
「この前は大変だったな」
ここは教室。青年は昴と二人で窓の外を眺めていた。
「うん、それで」
昴が話し出すと、青年はにこやかに昴を見て聞き返す。
「でも一つ収穫はあった」
昴はその青年の様子を見て、少し穏やかになる。
「うんうん、何、それは」
青年の目が爛々としている。
「美佐雄が人の話を聞くようになった」
その言葉を聞いた瞬間、弾けるような笑顔になる青年。
「うん、仙人に教えて貰ったんだ。で、それで」
「なんなら、俺も教えたけどな」
昴は少し棘を刺すように青年に言う。手柄が仙人だけになるのに抵抗があったのだ。
「まあ、いい、だが一つ問題も出来た」
そして、牧師が演説の中話題を変える時のように話し出す。
「うん、何かあったっけ」
青年はニコニコしながら聞いてくる。
「美佐雄、聞き過ぎだお前」
昴としてはこれはこれで迷惑していたのだ。何かにつけて聞いてくるので、捌く昴も大変なのである。
「えっ、そうかな。仙人もずっと聞いてたよ」
きょとんとした様子で青年は抗議した。
「それは気のせいだたぶん。話聞く限りたぶん仙人は寝てただけだ。仙人が何者で、どれだけのことが出来るかはわからないが、山籠りの仙人が会話の極意なんてものを持ち合わせているわけないんだ。俺はお前の話からそれを推察したぞ」
そう、会話の相手の居ない仙人に会話の極意を聞くのは間違えなのだ。冷静に考えると、そう言う話になってくる。
「でも、僕、会話上手くなったでしょ」
青年が不安そうに尋ねてくる。
「まあな。それは認めるよ」
こと「会話」と言うことに限って言えば、成長したのは確かだ。
「なら、やっぱり仙人のお陰だよ。そうじゃない」
仙人の所へ行ってからかわったのもまた事実である。
「まあ、それもそうか」
「うん、そうだよ。それに楽しかったでしょ」
「まあ、な」
素直に認めたくない部分もあるが、かなりのリアリティがあって楽しかったのも事実だ。
「あっ」
そして思い出す。
「どうしたの」
「参加料払わなきゃ」
そう、参加料を払わずにゲームに参加していたのだった。ちょっとした犯罪である。
「みんな僕のために来てくれたし、今回は僕が持つよ」
青年の家は裕福なためたぶん、これくらいは余裕で出せる。出せるが、
「いやいや、それは悪いだろ」
昴としては青年とは対等な立場でいたい。おごられるとそれが崩れる気がして嫌だった。
「悪いことないわ。悪いのは貴方よ昴。参加料を払わないなんて」
と、突然愛海が現れる。
「本当に呼んでないのに突然出てくるよな。急に。それは悪かったよ。ってかお前、仙人の孫だったんだな」
昴は話題を変えるために、じとーとした口調で愛海を刺した。今となってはゲームの特性を知っていたからあれだけ冷静だったのかとわかる。
「まあ、その話はどうでも良いわ。それよりも二万円払ってちょーだい」
愛海が手を出して昴に詰め寄った。
「ってなんで主催者側のお前の分までちゃっかり払うことになってるんだよ」
昴は抗議する。仮に皆が自分で払うにしても、愛海の分は愛海が払うため、二万円の請求は確かにおかしい。
「僕を忘れないで下さいねーんーど」
と、今度は達彦が出てきた。
「別に忘れてないよ。このタイミングで来るな。ややこしくなる」
そもそもこの三人が揃うと収集が付かなくなる。
「なんか久しぶりにみんな揃ったね。みんなで写真撮ろうよ」
しかし青年はお構いなしだ。
「お前、マイペースなのは変わらないのな」
昴の突っ込みは今日も冴えている。
「さすがヒーロー、名案ね」
愛海の中では青年はもうヒーローのようだ。
「僕はヒーローにはなれないのかなづち」
達彦はどうやら愛海を好いているらしい。
「貴方はまずギャグを止めなさい」
「それは無理難題宿題大嫌い」
しかし二人が結ばれるのは難しそうだ。
「じゃあみんな集まってー。いくよー。はい、チーズ」
カシャ。
この四人はこの後も仲良く学校生活を送るのだった。
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