第3話 会話の極意 山の噂と仲間達2

「私のことを呼んだ」


 と、そんなところでまたよからぬ乱入者が現れた。昴は展開についていけなくなってきている。


「なんだ、急に」


 聞こえたのは女性の声。廊下からだ。仙人の話をしているところで「呼んだ」と来た。それをそのまま捉えるなら彼女が仙人だ。


「呼ばれて飛び出て私の名前は世界のヒロインあ・い・み。私の白馬の王子さまはどこー」


 ただ、仙人は山にいるはずで、偏見だがきっと男で、年も取っていて、目の前の学生である可能性は非常に低い。


「ちょ、待った待った待った。うるさいし、呼んでないし、ってめっさ美人」


 現れたのは目を奪われるほどの美少女だった。


「あら、私の王子さまにな・り・た・い・の。そのためには主人公にならなくちゃダメよ」


 どうやら恋人を探しているらしいが・・・・・・。特殊な恋人のようだ。一瞬目を奪われたが、昴はすぐに冷めた目になる。


「美人だけど、変人だ」

「初めまして、僕、美佐雄って言います。お綺麗ですね」


 さも、会話の極意を勉強しました風に青年は挨拶をした。


「はぅっ。ダメよ、ダメ。そんな目で見つめないで。ダメ。二人で私を争わないでー」


 昴はもう頭が重くなっていた。状況を整理出来なくなっている。


「争ってないし、マイペース過ぎるだろ。何でこうまともに会話できるやつがいないんだ。俺もその仙人とやらに会いたくなってきた」


 割と本音だ。仙人がいるかはわからないが、いや、いないと思うが、会ってみたい気持ちになってくる。


「じゃあ会いに行こうよ」


 青年が目を爛々とさせている。


「みんなで行こうそうしヨーヨー」


 そう言えば彼が言い出しっぺだったか。


「冒険に出掛けるのね。いいわ、ヒロインには冒険はつきもの。王子さまと一緒に魔王と戦うわ、私」


 彼女はもう放っておこう。


「えっ、いや、冗談だったんだけど」


 いつの間にか行く流れになってしまっていることに引いている昴。いやだって、仙人に会いに行くって、まともじゃないのだもの。


「あーあ、私の愛しの王子さまはどこー」

「主人公って王子さまじゃなくちゃだめなの」

「布団が吹っ飛んだ。たまには普通のギャグもーもーっとうしししし」

「あはははは、やっぱり達彦くんは面白いね」

「貴方だけはヒーローはないわね」

「ひどい。どいつ。いつから。からす」

「ギャグは下品」

「げひーんひんひん馬の鳴き声」

「貴方はヒーローになりたくない」

「僕はなりたいよ」

「あらっ、良いわね、じゃあ私にそれを示してみて」


 しかし、会話はドンドン進んでいく。そして昴は思った。まともじゃない奴らなのだから、まともじゃないことをやってもそれはもう普通なのかもしれないと。類は友を呼ぶとも言うし、案外会えるのかもしれないと。ともかく、お目付役は必要だろうと。


「ま、いっか。こいつらの面倒を仙人様に任せた方が気が楽だ」


 そう、自分もまともじゃないことを言って、行くことをこっそり決めるのだった。


「さあ、冒険の始まりよ」

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