第84食 パプリカ的赤カレー:美味これくしょん神田倶楽部(A24)
月曜日の夜、書き手が足を向けたのは、東京メトロの竹橋駅で、そこから歩いて十分ほどの所に在る裏通りに、大人の隠れ家のような一軒のレストランが佇んでいるのだが、それが「美味これくしょん神田倶楽部」である。
美味これくしょんは「和と洋の融合したユーロジャポネ料理」を提供している洋食料理店である。そして、この店に漂うお洒落で落ち着いた雰囲気は、ディナータイムにカレーだけを食す目的で独りで入店する訪問者を気後れさせ、カレーだけではなく、コース料理とワインを注文しなければいけないような気にさせてしまうかもしれない。
でも、そんな懸念は杞憂だ。
実を言うと、今回の〈神田カレー街スタンプラリー〉には、カレー専門店ではない料理店も数多く参加しているのだが、そういった店の中には、スタンプラリー向けのカレー料理を提供しているのは昼時だけというケースも少なくはない。
だがしかし、である。
たしかに、美味これくしょんは、フレンチを中心にしたメニューを提供しているレストランではあるものの、ガイドブックには、カレーの提供はランチだけ、という記載は無かった。念の為、入店時に、ディナータイムにカレー〈だけ〉の注文でも大丈夫かどうか、その点をスタッフに確認してみたところ、ディナーにおいても、注文品はカレーだけでも無問題という返答を受けたので、書き手は、ホッと胸を撫で下ろしながら、着座したのであった。
この美味これくしょんが提供しているカレー料理は、赤いカレーと緑のカレーの二種類である。
赤と緑というと、どうしてもタイカレーを想起してしまうのだが、ここのカレーは、タイのレッドカレーとは全く違ったものになっているらしい。
日本では、レッドカレーと呼ばれているタイ料理は、タイ本国では、〈ゲーンペッ〉という名で呼ばれているそうだ。
ゲーンは〈汁物〉、そして、ペッは〈辛い〉という意味であり、タイ語の名称には、〈赤〉という色関連の単語は使われてはおらず、赤い色ををしているタイのカレーは、あくまでも味がその名の理由であり、つまるところ、〈辛い〉物を指している分けなのだ。
ゲーンペッには、〈プリック・キー・ヌー〉という赤色のキダチトウガラシが使われているので、結果的に、ゲーンペッは赤味が際立ち、その結果として、タイ国外では、トウガラシの赤色ゆえに、レッドカレーと呼ばれるようになったのであろう。
要するに、そもそも、タイのレッドカレーの赤はトウガラシの赤さで、ゲーン〈ペッ〉は辛い汁物なので、それゆえに、タイのレッドカレーの〈赤さ〉は、いわば、辛さの象徴になっているのである。
そして、美味これくしょんの赤いカレーは、「カレールージュ」と名付けられている。ちなみに、「ルージュ」とはフランス語で〈赤〉を意味する単語で、〈口紅〉をルージュと呼ぶのは、その赤色に由来している分けだ。しかしながら、この店のカレーの赤さは、赤い辛いトウガラシとは別物なのである。
美味これくしょんのオリジナル・カレー、「カレールージュ」は、「ビーフ味をベースに野菜とフルーツに旨味として鶏肉を加えて」おり、香辛料は「荒く砕いたコリアンダーやクミンといった数種類のスパイスを加え」ているのだが、その赤い色のベースになっているのは、トウガラシではなく、〈赤パプリカ〉らしいのだ。
たしかに、パプリカは〈トウガラシ属トウガラシ〉の属しているのだが、日本におけるパプリカは辛みがなく甘い品種なのだ。
その結果として、赤色のカレーであるものの、タイのレッドカレーの辛い赤カレーとは違った、「さっぱりとして軽やかな味」になっているのであろう。
〈訪問データ〉
美味これくしょん神田倶楽部:神保町・竹橋
A24
十一月十四日・月・二十一時半
スパイス香るカレールージュ:一二〇〇円(現金)
〈参考資料〉
「美味これくしょん神田倶楽部」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』六十九ページ。
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