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(あらすじ:栄治と三枝は協会本部の訓練所に行く。そこで上田ひろ子という教官に出会う。上田ひろ子は宮部と同郷らしい)
*
栄治は三枝に連れられて、訓練所にやってきた。絵瑠はいつも誰よりも早くやってきて、勉強か結界術の練習をしているのだと、三枝は言った。
「お前は練習しなくていいのかよ」と栄治が言うと、
「いや僕は結界術をマスターしろなんて言われてないですし。宮部先生ほど上手くなっても仕方ないですよ」
午前中は、建物の二階の教室――といっても、会議用のテーブルとパイプ椅子とホワイトボードがあるだけの部屋だが――で、魔師の法的な責任や役割に関する授業を受けていた。栄治は三枝の隣で頬杖をついていた。
受講生は、真木、三枝、そして絵瑠だけだった。どうやら特級魔師になりたがる人間はそう多くはないらしい。
授業は毎回、同じ女性の講師が行っていた。黒いスーツのYシャツの胸元をはだけさせていた。首から提げたネームプレートには、上田ひろ子と書いてあった。彼女がホワイトボードに文字を書き始めたとき、右腕に刺青が彫ってあるのに栄治は気づいた。宮部の右腕にあるのと同じような、幾何学的な模様だった。はだけたYシャツの奥の胸の谷間のあたりまで、刺青は伸びてきていた。
「おい三枝、あの刺青は何だ」、小さく栄治がきくと、
「ああ、あれですか。宮部先生と同じですよ」
「それはわかってる。どういう刺青だ?」
しかしそのとき、
「おいそこ!」と上田ひろ子が大声を出して、栄治に向かって指を指した。「キリンジと言えども私語は許さんぞ」
「あ、さーせん」
言うと、上田はすぐにトーンを切り替えて、授業に戻っていった。
それっきり、授業は粛々と進行した。
午前の授業四回が終わったのは12時で、そのとき上田は、
「午後は戦闘訓練なので地下一階に集合すること」と言った。そして、とくに終わりのあいさつをするでもなく、上田はそのまま部屋を出ていった。絵瑠と真木も、立ち上がってどこかに行ってしまった。
「なあ、あの刺青は結局何なんだ」
「あれは、宮部先生の出身の村が成人した村人に彫っていたやつですよ」
「じゃああの上田ひろ子って奴と宮部は同郷か」
「まあそうなりますね。月入村って言うんですけど」
「このあいだ真木が宮部に絡んできたとき、なんか言ってたけど……」
「月入村は、20年くらい前に、革命みたいなことを計画してたんですけど、実行に移す直前に協会本部にバレて粛清されたんです。革命の動機は諸説あってよくわからないんですけど、魔師が不自由に暮さなきゃならないことに対する反発があったみたいです。真木はそれを揶揄してたんですよ」
「20年前っていうと、宮部は二十歳だったのか」
「月入村の年長者と他の村から集まってきた人たちが計画したことなんで、宮部先生は関係なかったんです。でも、月入村は粛清を受けて解体され、村の中心人物は投獄、革命に関係なかった村人も全国に200ある魔師の村に散り散りになったんですよ」
栄治は家族や兄弟が無理やり引き離されて、連れていかれる様を想像し、眉をひそめた。
「もう一つ、その村のおもしろい話があるんですよ。月入村は、一般人をキリンジにはせずに、村人の中から選んでキリンジにしていたんです」
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