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(あらすじ:栄治が明け方に見た夢の描写)
*
次の日の明け方、栄治は夢なのか現実なのかわからない幻のようなものを見て、目が覚めた。
段ボールの箱の中で毛布にくるまっていたとき、何者かが幼い声で「ねえ、ねえ」と言いながら、自分の体をゆすぶってくるのを感じた。鬱陶しく感じながら目を開けると、そこには10歳くらいに見える子どもがいた。中性的に見える。白いTシャツに短パンを着ていたその子どもは、栄治の顔を覗き込むと、無邪気に笑った。
「ねえ、かくれんぼしようよ」
「はあ?」
「じゃあ僕が隠れるね」
そう言うと、子どもは裸足で駆けて、部屋を出ていった。栄治はリビングの一角に取り残されて呆然としていた。三枝は寝室の方でまだ寝ているはずだ。
あの子どもはキッチンにつづくドアを出ていったようだが、こんな狭い部屋にまともに隠れられるはずがないだろう。栄治は戸惑いながらもゆっくりと体を起こし、伸びをした。不思議と彼の中に、子どもが突然現れたことに対する疑いの気持ちは芽生えなかった。
(もうかくれんぼは始まってるのか?)
フローリングの上を、足音を立てないように歩いていき、半開きのドアを出てキッチンに入った。少年はどこにも見当たらない。キッチンの先は直ぐに玄関になっており、それ以上先には行けない――玄関を出ていないのなら、ということだが、その疑惑もやはり栄治の考えには浮かばなかった。とするなら、キッチンのどこかにいるのか。
栄治はシンクの下の戸棚を開けて、中を見た。いない。
(とすると、他にどこに隠れる場所がある?)
栄治は流し台の上に飛び乗って、キッチン全体を見回した。電子レンジ、電気ポット、炊飯器、コンロ、冷蔵庫……。
(冷蔵庫!)栄治は何かを思い出した。(そうだ。あいつはいつも、かくれんぼのときは冷蔵庫の中に隠れてたじゃないか)
栄治は冷蔵庫の前に行き、扉を開けた。冷たい空気が流れ出してきた。
目の前の棚には、もぎ取られた手足が四本収まっていた。棚の一番下には、胴体がまるで置き場所に困ったのでとりあえずそこに入れておいたとでもいうかのように収まっていた。冷蔵庫の床には血がべっとりと溜まっていて、他の食材がその中に浸かってしまっていた。そして、ふと扉の裏を見ると、少年の首が牛乳パックの隣に詰め込まれていた。
栄治は自分の見た光景に驚きはしなかった。ただ気持ち悪いな、嫌なものを見てしまったなと、思っただけだった。
栄治はそっと冷蔵庫の扉を閉じると、冷蔵庫の表面に写った自分の姿を見た。それは絵瑠の姿だった。
やがて、景色が霧のように見えていったかと思うと、まるではじめから眠ってなんかいなかったかのようにすっきりと目が覚めた。
時計は6時を示していた。
(あいつは誰だ?)
栄治は一瞬考えたが、すぐに思い出した。
(ああ、優紀か。前にも見たな。とすると、俺は、絵瑠が見ている夢を盗み見たってことになるわけか)
栄治は、段ボールの中でもう一度寝なおそうかと思ったが、目をつぶっても中々寝つけなかった。あのバラバラにされた優紀の体が目の裏に焼きついているようだった。
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