13

(あらすじ:麒麟を倒した栄治。疲れている)


   *


 麒麟を飲み込んだ直後、絵瑠からの魔力が切れ、空中に投げ出されたまま、栄治はもとの猫の姿に戻ってしまった。


 なすすべもなく湖の真ん中にぽちゃんと落ちて、新しい体での泳ぎ方もわからないので死ぬかと思ったが、その瞬間体が浮き始めた。


 されるがまま体をあずけていると、栄治は畔に運ばれてゆき、そこには宮部がいた。宮部の顔がかなり疲弊を見せていたことに驚きつつも、


「ありがとう」と栄治が言うと、


「いや、こちらこそだ」と言い、栄治を地面に降ろした。「気が変わったのか? それともヒーローごっこ? はじめから助けるって決めてたけど、焦らしたかったとかか?」


 宮部は、栄治と絵瑠とのあいだにあった意識の交わりを知らないのだ。


「何だろう。北風と太陽っていうか……。あいつが俺を頼りにしてくれてるって思ってたけど、実際はそんなことなくて、そのことに気づいたらなんかムカついて……」


「お前それでも23かよ。バカだなあ」


「うるせえな! お前は俺が来なきゃ死んでただろ」


「さあ、どうだかな」と宮部が言いながら、視線を栄治の後方に伸ばしていた。

栄治が振り向くと、 絵瑠がふらふらの状態でこちらに歩いてくるのが見えた。今にも倒れそうだった。


「おい、大丈夫かよ」、栄治は言う。


「キリンジを作ったあとにあれだけ戦ったんだ。無理もない」


「なんで来たんですか。早く逃げてください。すぐに村の人が来ますから」、絵瑠が憔悴しきった声でそう言った。


「って言ってるぞ」、宮部が冷やかして言う


「いや、まあいいよ。しばらく一緒にいるよ」


「しばらくって何だよ」


「どうせあと何年かは旅するつもりだったし」


「そうですか」、絵瑠は言い、安心したような笑みをこぼした。


 そのとき、その表情で固まったまま、体が仰け反ってゆき、頭から倒れていった。頭が石の上に落ちる直前、宮部がその間に手を差し入れたので、直撃をまぬがれた。


 しかし宮部の手の方は無事ではなかった。手の甲を切ってしまったのか、引き抜いた腕に赤黒い血が流れた。


 絵瑠は気を失ったまま横たわっている。


「やれやれ。次はお前が助けろよ」


 宮部は栄治にそう言うと、村の人々が駆け付けるのを静かに待っていた。

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