第二話

(あらすじ:麒麟との戦闘から二日経ち、栄治は完全に回復していた。宮部は今後どうするべきか、栄治に話す)


   *


「絵瑠とお前は俺について来い。それが一番良い」、宮部は言った。「別にこの村に残って俺がお前を元に戻す方法を見つけるのも待つってのもアリかもしれないが、それは絵瑠のためにならない」


「ついていくのは良いけど、どこに行くんだ?」、栄治は訊く。


「東京だな」


 二人は栄治が最初の夜に泊まった部屋にいた。


 麒麟を倒した夜から二日経ち、栄治の疲労は完全に回復していた。絵瑠は湖の畔で倒れてからずっと眠り込んでいた。とはいえ身体に異常はなく、単に極度の疲労のためだと宮部は言っていた。


「たぶん絵瑠くらいの実力があれば、この村にやってくる麒麟は問題にならない。だけど、一生この村に居続けるのはヤバいぜ。はっきり言ってこの村はなかなか最悪だぞ。あいつはたぶんこの村で暮らすよりも自由に暮らした方がいい。あいつだって自由になりたいと言っているわけだし」、宮部は置いてあった饅頭を食べながら言った。「良いのはこの饅頭くらいだな」


「まあ俺もこんな田舎よりは都会にいた方が気が楽かもしれないな」


「魔師が自由になるためには、つまり俺みたいに全国を歩いて回れるようになるためには、資格が必要だ。それを取ってもらうことになる。これ以外に方法はない」


「どういう資格なんだ?」


「特級魔師資格」


「…………じゃあ資格を取ったら俺たちは自由になるってことか?」


「まあそうだな。だがその前に、お前は魔師協会の奴らにいろいろと実験されるだろうな」


「何だよ。それじゃあ俺は捕まりに行くようなもんじゃないか」


「まあ大丈夫だよ。死なない程度に実験されるだけだから」


「大丈夫じゃないだろそれ」


「今逃げ出しても結局捕まるから、おとなしくしておけ」、宮部は饅頭の包み紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に放り込んだ。「それに仮にお前らが資格を取って自由になったとしても、俺が放さないかもしれないな」


「どういうこと?」


「俺について来るからには、俺の言うことは絶対に聞いてもらうぜ?」、宮部は人差し指を栄治の左目に向けた。「俺にも俺の目的があるからな。協力してもらう」


「目的って?」


「それはそのうち話す」


「あとから都合の良いことを言って、無茶な要求に応えさせようとしてるだろ」


「ちげーよ。お前、猜疑心高すぎ」


「絵瑠にだって一応目的があるんだからな。過去を清算して、自由になりたいって言ってた」


「いや、あんな目的はまだまだ浅いよ。俺の目的の方が間違いなく深いな」


「……目的でマウント取るなよ」と栄治が言ったとき、襖の外から声がした。


「あの、宮部さん」、村長の声だった。


「なんだ」


 襖が開いて、村長が姿をあらわした。「絵瑠が目覚めました」


「そうか、よかったな。飯でも食わせとけ」


「いや、それだけじゃなくて、折り入って話があるのですが。……こちらで」


 村長が別の部屋に促したので、宮部は「ああ」と言って立ち上がった。そのとき、長ズボンの裾がはだけて、くるぶしのあたりがあらわになった。そこに黒い刺青が入っているのを、栄治は見た。たった一瞬だったが、白い肌の上の冴え冴えと羽ばたいている鳥の姿が、目の中に焼きついた。それが、しばらく目の中に残って消えなかった。


 それが烏の刺青だということに、栄治は後から納得した。

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