(あらすじ:村での怪しげな儀式)


   *


 赤い月が静まり返った村を照らしていた。


 神社の中に、黒い装束を身にまとった人々が集まってくる。人々は神社の幣殿に集まってゆき、隊列を組んで並んだ。その陣形の前に、普通の洋服を着た人が運ばれてくる。栄治だった。


 栄治は注連縄のようなものでぐるりと体を縛られていた。隊列の前に座らされた。装束を身にまとった人々が動き出し、方形に並びなおして栄治を取り囲んだ。


 ひゅうと風が吹いて栄治の肌を撫でた。生暖かい空気に触れ、栄治は意識を取り戻していく。自分が布団の中にいないことをなんとか感じ取ったとき、はっとして周囲を見回した。


「な、なんだ?」


 栄治は立ち上がろうとしたが、両足も縄で結ばれていたため上手くいかない。


 そのとき、闇に溶けてしまいそうなほど黒い装束の中から一人、歩み出てきた。白い顔が暗闇に浮かび上がると、それは絵瑠だった。


 絵瑠は装束の中から右手を出して、栄治に向ける。手には杖のようなものが握られていた。


「――――」


 絵瑠が何かをぶつぶつとつぶやき始めたが、栄治の耳元までは届いて来ない。それが、別の行動へとつながる準備段階の言葉であることだけが、察せられた。


 絵瑠の周囲に、蛍のような光の粒が浮かび上がり、彼女を中心としてゆっくりと回転を始める。回転の軌道は徐々に中心によってゆき、やがて大きな光となった。


「―――――」


 絵瑠が何かを叫んだのと同時に、栄治の全身にどんと衝撃が走る。全身の穴という穴から細い糸のようなものが流れ込んでくるのを感じ、それとともに力がみなぎってきた。体に巻き付いていた注連縄が何でもないひものように思えた。全身に伝わる異物感に身をよじりながら両腕に力を込めると、簡単に注連縄は千切れてしまった。


 それでもやはり絵瑠は栄治に注ぎ込みつづけた。絵瑠の周囲に漂っていた光が、今度は栄治に集まって行く。栄治の視界は強い光に埋め尽くされていった。


 肉体が何か別のものに変化しようとしていた。そして、ふたたび意識を失った。

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