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(あらすじ:目覚めた栄治は自分が猫になっていることに気づく。)
*
何か気がかりな夢を見ていたわけでもないのだが、栄治が目を覚ますと、自分の姿が一匹の猫に変わっていることに気がついた。自分の手が、猫のような肉球のあるものに変わっていたからだ。
栄治は、寝返りも打てないほどの小さな檻の中にいた。檻は和風の書斎の机に置かれていた。ドアの横に置かれている鏡に、ちょうど自分の姿が映っていた。それは一見するとやはり猫のようだったが、よく見ると尻尾や耳が変わった形をしていた。
「なんだ、これ」
無意識のうちに声が出ていた。が、自分の口から言葉が出てきたことに、むしろ栄治は驚いた。この体になってもまだ言葉は話せるようだった。
首にはペット用の首輪がつけられて、そこに木の札がぶら下がっている。文字が書いてあるようだが、首元にあるのでうまく見ることができない。
(俺をペットにするつもりなのか……? 婿養子の方がましだったな)
すぐに逃げ出そうと考えたが、檻の扉には南京錠がついていた。檻のすき間から手を出して、南京錠をさわったが、猫の手では何もできない。
「くそっ」
不貞腐れて横になっていると、荒々しい足音が聞こえてきて、まもなく書斎のドアが開いた。
入ってきたのは、昨日宴の席で話した宮司だった。宮司は、栄治が目覚めていることに気づくと、走り寄ってきて檻の外からしげしげと眺めてきた。
「目覚めましたよ!」、宮司は入口の方に向かって叫んだ。
そして檻を持ち上げて運ぼうとした。そのとき、
「おい、ふざけるなよ」と栄治が言った。
宮司は仰天して、檻から手を離して床に落としてしまった。がらーんと大きな音がする。栄治も檻の中でもみくちゃにされたがそれほどダメージはなかった。
「おい、どうした」と言って、ドアから村長が入ってきた。
「い、今、キリンジがしゃべりましたよ」と宮司は言う。
「キリンジがしゃべるわけないだろう」、村長が、落ちている檻の中を覗き込んだ。
「俺をペットにすんじゃねえ」また栄治が言うと、村長が尻もちをついて倒れた。
「しゃ、しゃべった!」
「おい――」
「すごい! しゃべるキリンジだ。絵瑠!」
村長は檻を乱雑に取り上げ、部屋の外に飛び出していった。もう一度檻の中でもみくちゃにされながら、栄治は何度も村長に呼びかけたが、まったく無視されていた。
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