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(あらすじ:栄治が村長の家に帰ってくると、宴会の準備が始まっていた。宴会に無理やり参加させられた栄治は次第に違和感を覚えていく)
*
村長の家に帰ってくると、夕食の準備をしているところだった。家の中に知らない人が何人も集まっていて、客間と居間とを隔てる襖を取り外し、長机を二つ並べて宴の場を作っていた。
「今日は村の人を呼んで宴会をすることになったから」と村長は言った。「また汗かいただろ。もう一度風呂に入って来いよ」
言われるがままに、軽くシャワーを浴びて着替えてきたときには、すでに二十人近い村人が集まっていた。それぞれが酒なり料理なりを持ち寄っていた。
宴は夕方の六時あたりから始まった。豪勢な料理も少しは出てきたが、ほとんどが家庭料理や郷土料理の類で、それがどことなく栄治の緊張を和らげはした。娯楽の少ない田舎での宴というのはやはり大盛り上がりするもので、みんなで粛々と酒を吞みながらゆったりと雑談に耽るというような大学時代の飲み会しか経験していない栄治にとっては、戦場にいるようなものだった。
栄治は細長い机の短辺――しかもそこは上座だった――に座らされていたが、なぜか隣には絵瑠がいた。絵瑠はほとんど料理には手を付けず無反応と言ってよいくらいだったが、唐揚げにだけはつよい反応を示し、大量に食べていた。
「絵瑠ちゃんはほんとに唐揚げが好きだねー」、どこの誰だかわからないおばさんが言っていた。
「栄治くんはもう成人だろ?」、五十代くらいのおじさんが話しかけてきた。
「ええ、そうですけど」
返事をすると、返事をする前からすでに構えられていたビール瓶をこちらに向けてくる。
「遠慮しないで」
仕方がないので手元にあったコップで受けると、顔を赤らめたおじさんは嬉しそうに微笑んだ。栄治はビールを一口だけ飲むと、机に置いた。
「私は村の北東の方にある神社の宮司なの」、おじさんは語尾を可愛らしくして言った。酔いのせいだろうか。
宮司のおじさんはこの村の歴史について話しはじめたが、栄治の耳にはほとんど入ってこなかった。村は江戸時代の初期からずっとここにあるらしい。しかしとくに興味を引くような内容ではなかった。適当に相づちを打って、やり過ごした。
宴は夜中までつづくと思われたが、10時ごろになると自然と解散の流れとなった。まるでその時間が潮時とわかっていたかのようだった。
村長の奥さんがやってきて、「お部屋に布団を敷いといたからね」と言った。「片付けはいいから、ゆっくり休んで」
言われるがまま部屋に戻り、布団の上に寝転がった。
(最初は変だと思ったけど、案外いい村かもな。変なのは変わらないけど)
家の外ではまだ村人たちの声が聞こえる。酔っぱらった人たちが、大声で話しながら、家に帰っているのだろう。
「これで絵瑠ちゃんも、立派な……だあ」
〈……〉の部分が聞き取れなかった。
(今回の宴と絵瑠さんに何の関係があるのだろう。まさか婿養子にされるとか……。いやさすがに今どきそんなことがあるはずはない)
「一時はどうなるかと思ったんだがなあ。自分を傷つけて……」
「いやいや、まだ私は心配よ」などと言っている。
人のうわさ話を聞くのは趣味ではなかったし、聞いたところで絶対に良いことにはならないだろうと思い、栄治は布団の中に潜った。自分では気付いていなかった緊張が、次第にほどけていくのがわかった。それとともに、長い旅の疲れが体中から感じられるようになる。栄治はこのまま眠ってしまおうと、目を閉じた。
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