ZONE6:熱帯魚ゾーン・1

 エレベーターがゆっくりと上がっていく。時折、機械がこすれ合う不気味な音がミオの鼓膜を震えさせる。

 「大丈夫?怖いの?」

 クオンがミオの背中を優しくさする。

 「すみません・・ありがとうございます」

 やっぱりこの人が近くにいると安心する。ミオはそう感じた。どこか懐かしい、でも少し寂しい感覚にもなった。


 「まぁ、ここからプチ冒険が始まるからそこんトコロ頑張ってねー」

 リリーがニヒっと笑いながらミオの方を向いた。彼女も近くにいると、少し暖かい気分になる。ミオは安心した気分になって笑みを浮かべた。

 「どしたん?」

 「いえ、なんだか懐かしい気分になって・・」

 「どうやらあなたにはとても良い家族がいるようね」

 

 そしてエレベーターは止まり、ゆっくりと扉が開く。

 そこは沢山の木と草が生い茂げ、羽虫が飛んでいる。下には、大きな池がいくつもあり、そこには沢山の色とりどりの魚たちが泳いでいた。

 「うわーすっごいね」

 「このゾーンはいつも蒸し暑いわね」

 リリーとクオンはここに来た事がないからか、キラキラした目で、周りを見渡している。


 「ここはいわゆるアマゾンという場所でしょうか・・」

 そうなの?とリリーがミオに聞いてみる。

 「はい。大きな川と森に包まれている場所って言えばいいのかな・・」

 そう説明するとリリーは理解したのか、周りを再び物珍しそうに見渡した。


 「何か聞こえるわ」

 すると、池から突然、沢山の魚たちが飛び出していた。その魚には鋭い歯が生えている。

 「きゃっ!」

 「うわっ!なんだいなんだい!?ディーパーか!?」

 何匹も3人の足に食らいつこうとする。エレベータに乗ろうとしたが、なぜか止まってしまっていた。

 「やばいですね・・」


 リリーが銛で何匹もしとめるが、前からどんどん湧き上がってくる。

 絶体絶命かと思ったその時、その先から、男の人影が見えた。

 「おおいアンタら!俺に任せときな!」

 そういうと男性は大きな網を広げ、それを魚たちに向かって投げた。魚たちはなすすべもなく網にかかり、男性の乗っていたボートに引き上げられた。


 「よしよし。今日も大量だな。お前ら大丈夫か?」

 男性はボートから降り、3人の方へやってくる。男性は迷彩の帽子と大きなリュックをしょっており、まるで探検家のような装いだった。

 「ありがとねー。あやうく骨にされると思ったよー」

 「随分と沢山出てきたわね・・」

 「この魚たちって・・あのときお2人と出会った場所で・・」

 たしかディーパーといったか・・ミオはあの時の体験がよみがえり、寒気を感じた。


 「こいつらはピラニアっつーんだ。このエリアじゃあ、一番狂暴なハンターだから気をつけろよ」

 「ほえー。かわいい名前なのに随分とやばいやつらだねー」

 ピラニア。その名前を聞いてミオは彼女は何かを思い出した。

 「この名前・・どこかで聞いたような・・」

 「ミオちゃんどしたん?」

 リリーがひょこっとミオの顔色をうかがう。

 「ああいえ、何も・・」

 

 「そうだ。久しぶりー!アズマおじさん!」

 「おお。誰かと思えば、下の暗い場所にいる嬢ちゃんたちじゃあねぇか。一体なんでここに来た?」

 「この子を最上階に案内するためよ」

 どうやら姉妹2人はこのアズマという男性と知り合いのようだった。

 「そういや、そこの短髪の嬢ちゃんは見ねぇ顔だなぁ」

 「あ、初めまして・・ミオといいます」

 「俺はアズマってんだ。この熱帯魚ゾーンでこいつらの調査をしている」

 そういいアズマは先ほど捕まえたピラニアたちを見せる。

 「おぉ・・どうも」

 ミオは深々とお辞儀をする。そのあと、クオンが彼女の記憶や、これまでの経緯を説明した。

 

 「なるほどな。あんたは一番上の階のクラゲゾーンに行きたいと」

 「はい。そこに行けば、私が忘れていた記憶が取り戻せるかもしれないんです・・」

 「おっしゃ!なら俺についてきな。そのエレベーターは別の階に行くごとに数時間メンテナンスが必要なんだ。それまで俺の手伝いをしてくれねぇか?」

 「手伝い・・?」

 首をかしげる。それを見てアズマは大笑いした。

 「でぇじょうぶだよ。別にピラニアどもの捕獲とかそういうんじゃねぇ。だが、ここら辺はあぶない魚が多いから気を付けてくれよ。てなわけでついてきな」

 そうして3人は、アズマの後ろをついていった。

 

 

  


 


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このクラゲは嘘をつく Pepper @jholic0304

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