第2話 奥手

「本当に、僕は樹と知り合っていて良かった。友達が同じクラスにいることほど心強いことはないよ」

 そう言って、肇は微笑んだ。

「僕も、肇が同じクラスにいてくれて嬉しいよ」

 樹はそういう感情を口に出すことは恥ずかしいたちなので、どぎまぎしながらそう返した。

「ここだけの話なんだけれどね、君と昨日初めて会ったとき、なんだか初めてのような気がしなかったんだ」

 肇はそう小声で打ち明けた。

「えっ! 実は僕もそうなんだ」

「不思議だね」

 顔を見合わせてふふふと笑う。こんなにも気の合う人がこの世に存在するなんて夢にも思わなかった。


 翌日、樹が教室に入ると、奥で肇が女の子に取り囲まれていた。奥手そうな美少年に、女の子が興味を示さないわけがない。しかし、樹はまずいぞ、と舌打ちをした。これじゃ、男が黙っていないだろう。何もなかったらいいけど。

 案の定、その後で教室にいた粗暴なグループが肇を取り囲んだ。

「ずいぶん人気者じゃないか」

「俺達とも遊ぼうぜ? なぁ」

 樹が助けに入ろうとしたその時、チャイムが鳴って教師が教室に入ってきた。粗暴な輩たちはチッと舌打ちをして自席に戻った。

 ふぅ、と樹は安堵のため息をついた。しかし、これで終わりではないだろう。なんとかできないものか。

 しかし、ことはあまり大きくならずに済んだ。肇が樹にばかりかまうので、女子は脱落していき、遠くで見つめるだけになった。奥手であることは本人を救うこともあるのだ。

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哀そそぐ はる @mahunna

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