昭和編
第1話 転校生
「一乗寺肇といいます。好きなことは音楽を聴くことと、木彫りの人形を作ることです。よろしくお願いします」
ぱらぱらとまばらな拍手。女子学生はちらちらと肇のことを見ている。樹はそっと肇の表情を見た。目が合い、微笑んで手を振ってくれる。樹はなんとなく照れながら手を振り返した。女子学生の視線が今度は樹に突き刺さる。樹はさっと下を向いた。肇は色白で端正な顔立ちをしていた。大きな黒い瞳、すっと通った鼻筋、小さな、形の良い唇。女子学生が注目しているのも無理はない。樹もまた、肇の美形っぷりに緊張するのだ。初めて会ったあの日から。
「東京から来たんだって?」
休み時間、肇は途端にクラスメイトに取り囲まれた。
「うん、そうだよ」
「東京ってどんなところ? 綺麗な人ばかりなの?」
「俺知ってるぜ! 東京って雪が降らないらしいぞ」
肇は困ったように笑っている。そつがないように見えて、肇は元来引っ込み思案だった。樹は席を立って、肇の元に行った。
「肇」
「樹」
肇はほっとしたように笑った。
「放課後は、彼は僕が学校案内をするから」
そうクラスメイトに言うと、彼らは残念そうに眉根を下げた。みんな彼のような、優等生で優しい人が好きなのだ。その気持ちは痛いほど分かったから、樹は少し申し訳ない気持ちになった。しかし一方で、彼を独占できて嬉しい気持ちにもなっていた。正直、樹はすでに肇にぞっこんだった。こんな洗練された人が友達で、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
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