第23話 後書き

第1話 洋銀


 設定では、父方・母方、それぞれの兄弟姉妹らはほぼ結婚していて複数の子をもうけており、その中でもQちゃんはぐっと年下です。テレビの話題も「キーハンター」や「時間ですよ」で一世代違いました。「孤独に過ごす」ことはQちゃん自身のごく基本的な部分に大きく関わるところです。


 南沙織さんの登場もQちゃんから見ると、ちょっと世代が違う話題でしょうか。逆に祥子の年代なら知っていてもおかしくはなさそうですが、家の賄いと受験勉強に忙しい彼女にはとても驚きだったのでしょう。「17歳」で南沙織がデビューしたのは、6月1日でした。祥子が称えられながらも、そこに感じていた違和感は、管理人室の鏡の中のように自分が引き取られてきた頃に見た、妖精のような姿をした敦子でした。彼女は心の底から、オリジナルでいることを選んだのでしょう。ちやほやされる経験によって、返って自分らしい自分に気付いた祥子でした。一方で変身後の祥子は、瀞からローマの休日のあらすじを聞かされてロマンチックにうっとりするところも持っています。祥子の新しい髪型に瀞がすぐ気づいたのは、千鶴子とその昔二人で見に行った映画だったからでした。珍しく、あらすじも語っているようです。


 洋銀は、洋子ママと銀ママ、二人で開いた店で「洋銀」です。洋銀とは、洋食器や装飾品に使われる加工しやすい合金ですが、一方で粗悪で安物という意味もあります。洋子と銀はそれぞれどちらの意味を受け持っているのでしょうか。洋銀は、駅前に続く昔ながらの店舗付き長屋ですが、比較的間口は広く、その割にもともとはあまり奥の方は店にしておらず、カウンターとテーブル席が三つくらいでした。長屋の裏は、便所と坪庭越しに細い路地を挟んで川になっています。奥では、怪しげな賭け事や売春の斡旋もやっていたところでしたが、万博で弾みがついて、ある種の証拠隠滅も兼ねて、一階奥まで店舗にして、住居部分は二階だけにしようという計画です。


 今回登場のバルサンは、おなじみの燻煙防虫剤で、もちろんお祓い機能はありません。この当時のものはマッチで火をつけて燻煙剤を発生させる仕組みです。

 銀は、こういうものは徹底的にやりたい性分で、間取りに対して倍近い量のバルサンを仕掛けさせていて、きっと両隣りにも迷惑だったでしょう。店の女の子は、現在幸子一人ですが、以前にはもう少し女性を働かせていました。


 Qちゃんと幸子とは前回の事件後、初顔合わせです。本当ならみっともなくて顔も合わせられなさそうですが、子供には悪事がばれていないとでも考えているのか、虚勢を張っています。幸子が買い物のたびに持っている紙袋ですが、当時はあまりレジ袋的なものはなく、紙袋で持って帰ってくるのはどちらからといえば、ちょっと上品なお店で買って来たのよ、とお高くとまった様子のものでした。


 ゴミドンは、傷痍軍人です。ただ、見た目に異常がないため様々な支援から取りこぼされていた人でした。


 風呂屋で会った太一は彫りかけの入れ墨をしています。鯉の滝登りの図と流れる滝の線画があらかた出来上がり、色が少し入りかけてきたところでした。風呂屋に来た太一は、このとき既に憑依の一部は失われかけて、本来の心が樹に引き会わせたのでしょう。Qちゃんに冗談っぽっく刺青を持ちかけますが、「消えないなら僕はええわ」と言われ、より冷静に自分を見つめ直すことができるようになっています。そのうえで、Qちゃんに年齢を訊いています。年齢的にもあり得ないことに感情を高ぶらせていたわけです。理由も立たないことに激高していた自分に気付いたのでした。又この時に、幸子への気持ちにも気づいたのかも知れません。



第2話 いかさまと執着


 Qちゃんはたっぷり除霊をやってしまって、気づかぬながらもくたくたで寝てしまいます。眠りかけた樹の体で、春はお母さんと逢瀬を重ねることができました。ただ、この直後に千鶴子が感じた不安は言い表しようのないものでした。


 菜の花の河原で、ほんのひと時だけQちゃんは一人ぼっちになっていました。孤独を劇的に埋めてくれる存在がいなくなってしまった喪失感・不安感を表現したかったのですが、どうでしょうか。また、春ちゃんの服が変わっていたりします。Qちゃんは人が何かを与えられることを喜ぶ心を持っています。一方で自分は何か与えられないもんだと諦めてしまっている部分もあります。

 夢の菜の花の河原では、再会したタヌキから少しずつ、人の世界の理を学ぶようになっていきます。教わる部分は、少しコミカルな場面にしたつもりですが、上方落語のノリを拝借しました。


「執着」は、仏教の言葉として「しゅうじゃく」としました。



第3話 事件


 太一は、幸子に千円札を握らされて「お使い」を言いつけられています。幸子の手練手管で操られていますが、本人は、それどころではない状態です。ちなみに当時のビールは大ビンが140円の時代でした。


 下宮房子は、今回直接は登場しませんが、下宮満の遺体の始末も済ませ、他人を泊まらせるなど大胆になっています。ただ、実家から戻った時にはさぞ肝を冷やしたことでしょう。


 村井の汚い心の有り様は、苦労しました。ただ、洋銀の鍵を盗んだことも、泥棒に入ったことも、思い付きからの行動で山下刑事を悩ませています。また、自分から便所の戸を開いており、自らこの不運に落ちていったことになります。ただこれも、そういった行動をなにかに導かれて行っていたかも知れません。

 村井の見つけた10万円は銀が売春で幸子からピンはねしている金でした。自分が受け取り、幸子に分け前として渡していたのです。既に、幸子は一人で商売をするようになっていますが、このあたりも銀と幸子は騙しあうような仲だということでした。

 警察は、最初、三福荘に仮住まいをしていた銀と洋子に目星をつけました。次に、太一と幸子。だが誰も容疑者ではありませんでした.



第4話 守護霊のタヌキ

 階段から落ちるシーンの「三点支持」は以前父から習っていたものです。あの伏線がやっと回収できたというところでしょうか。花を踏まないようにしたというのは、「蜘蛛の糸」で生前カンダタが蜘蛛の巣にかかった蝶を助ける場面を思い浮かべましたが、もう一つ参考にしたものがあったような気がします。


 タヌキさんがQちゃんを大怪我から救うシーンですが、タヌキが覚悟を決めるよう知恵を授けた存在がいたような余白を残しました。その後で、後に登場する小獅子に業を一つ埋めたことを告げられます。ヒントを与えたのが誰か察しが付きます。


「リリリン、リリリン」は、二十世紀少年の一部を拝借したつもりでしたが、これだけでは何も伝わりませんでした。失礼しました。


 ゴミドンのラジオをちょっとした例にあげましたが、父はそういった方に優しい人でした。何かしらの機会に、ふと見せる弱者への優しさというものを持った人でした。



第5話 市民病院315号室

 タヌキは、樹とたっぷり話せませんでしたが、ある神様?のお使いから、ありがたい「お言葉」を頂き、このまましばらく、人間界に残ることを許されたのです。


 Qちゃんは、骨折の代わりに「減免された」罰を受けます。ラジオが手元から無くなりますが、その時Qちゃんは、「そんなに聞いてへんし」とラジオに関心を失ったようなことを言ってます。防衛機制の「合理化」と呼ばれる反応をしています。学校では、村井の兵隊かそれに操られた誰かの口を借りて、何かがQちゃんに答えさせようとします。下宮房子が下宮満の口添えで翻弄されたようになりました。Qちゃんは、杜子春の朗読から、自分の罰を代わりに両親が受けるのかなと深刻な心配をします。同じ朗読が、タヌキには全然違って聞こえていたようです。思わず笑ってしまう二人でした。


 祥子は、「岡山からの転校生」→「南沙織」→「オードリーヘップバーン」を経てやっと、「三宅祥子」として皆に認知してもらえるようになります。ところで、そんなやり取りの直後でも春ちゃんは「よいこになる」が優先です。


 天六ガス爆発事故は、大量のガス漏れにより多くの死傷者が出た事故でした。



第6話 砲弾ショック

「11人いるで」は、ご推察?通り萩尾望都さんの同名のマンガのタイトルを拝借しました。人数はストーリにあまり関係ありませんが。


 これまでの樹のお話で伝えたかった大きなテーマに

・憑依を消せば本来の自分に戻っていける

・業を埋めることで霊格ややるべき役割があがっていく。

がありました。

 一方で樹が悩む罰と自分の力を生かす道も大きなテーマになっていきます。

「砲弾ショック」が、Qちゃんの霊能力で快癒するように表していますが、あくまでの物語の中だけです。また、村井が「乞食」という言い方をしていますが、これも不適当な言い方かも知れません。ご容赦ください。



第7話 自転車に乗って

 いよいよライオンさんが本格的に登場です。よくあるマスコットキャラにはしたくないと思いつつ、ついイメージの中でケロちゃん(カードキャプターさくらのケルベロス)がでてしまって一人笑っています。後段で分かりますが、この獅子は眷属として使わされている獅子です。小獅子の言葉に涙するQちゃんですが、春と出会うまでの、思い通りにいかない学校生活など、どんな隘路に立っている…これから立つのでしょうか。


 ひろしが再登場ですが、彼はどうやらQちゃんに関心を持って欲しいようです。最後までひろしは本当に話題にしたいことは言えないままでした。なんとなくQちゃんもそれを気付いたのか、別れ際に小さく手を振っていました。この時に違う関わりがあればまたなにか変わったかもしれないなぁとか思ってしまいます。


 春ちゃんが初めて本格的に樹の体を操って行動します。今回は、市民病院から戻って来る途中の浄水場からの約1.3Kmを春ちゃんが走破しています。駅前踏切と、交通量の多い交差点をノーブレーキで突っ切ってます。よくぞ無事故でいてくれました。体力の限界を無視して体を動かしたため、ブレーカが作動するように、体のコントロールが樹に戻ってきました。かなり強い衝撃だったと思いますが、運よく敦子に救われています。交代はこれからも登場します。ちょっとした書き表し方の工夫が必要なところで気を付けたいところです。



第8話 習い事せんの?

 さと子の習い事(バレエ)は、幼稚園の教室を借りてバレエ学園が創設され、そのジュニア組で入団し、高校卒業まで続けました。一方のQちゃんは、習い事の真っ最中でも他のことが気になってしまったり、逆に一つのことばかりを繰り返して、全体の流れを乱すなどが頻繁にあって、「もうこんでええよ」となってしまうようです。ところが敦子の言いようは「じゃけ(だから)」とその辺りのことはすでに承知で三福荘に来ることを誘っているような言葉遣いになっています。Qちゃんを見送る姿も、少しこれまでと違っています。


 三福荘の建て替え計画が動き出しています。自分らしさを取り戻した穣は、兄と違ってアクティブな面を持っており、建て替え計画や、堺屋電工舎に優先して様々な工事を発注させること、市立中学校への寄付など、それまでにはしなかった積極的な周りへの働きかけを行うようになっています。



第9話 三重螺旋

 315号室で沢山「バーン」をやってから、幽霊が見えなくなった安井にタヌキと春の言葉や様子を実況し、疲れ切って眠っていると、自転車で暴走中の春ちゃんと入れ替わってドキドキしてしまった一日が終わり、帰宅して茶の間で寝てしまったQちゃんが見ている夢の場面です。


 丘の彼方に見えていた一行は、文殊菩薩、最勝老人、仏陀波利三蔵、優填王、善財童子と雄獅子でした。小獅子は文殊菩薩の眷属の獅子の分身でした。因みにQちゃんは卯年で、守り本尊が文殊菩薩様です。

 守り本尊は、十二支に対応しているとありますが、どちらかというと八方位に対応してるのでしょうか。


さて、「バーン」が歪を生み出す説明がされています。Qちゃん的には「そんなの関係ないやん」とはならないようです。最後に兵団の謎ですが、Qちゃんが万が一様々な法そのものを否定してでも春ちゃんを守ろうという行動に入った場合、どんな事態になるか想定が及ばなかったため菩薩様は仏法守護の神将と何百人もの兵士を控えさせていました。

 タヌキは、「より高き修業」に進むよう言われていたようです。



第10話 朗読「注文の多い料理店」

 野洲ひろしの下りは、その続きの「注文の多い料理店」とからめて「風の又三郎」っぽく書きたいなぁ、とか考えていましたが、担任教師の態度なんかが矛盾するのでやめました。

 Qちゃんの朗読ですが、幸子は「注文の多い料理店」を最初から最後まで廊下の角で立って聞いていたことになります。前日にもQちゃんの朗読を聞いて、今日は気になって最初から聞いていました。

 幸子の様子から、彼女が理不尽な目にあってきた過去が透けて見えたのでしょうか。よいタイミングで井上は出て来たようですが不発でした。話の筋には関係ありませんが、井上は、幸子が座に加わっているのを見つけて、ちょっと意識しちゃってました。座に加わるのも「あえて自然に。さりげなく自己紹介して…」などと若者らしく考えての行動でした。

 鮒の兄ちゃん(滝渕)の話題が出て、井上はちょっと落胆しています。

 堺屋の玄関で瀞と敦子が会話をするところですが、最後に「会社にして人を雇うたら」と言ってます。これも直接話の筋にはからみませんが、雪上夫婦の考えから出た言葉でした。タヌキも気になったのか、樹が出ていっても敦子の様子を見ていました。



第11話 手形

 杉原建設は、万博関連の建設需要増を背景に、堅気の会社に進化した会社という設定です。もっと、組事務所的な内装とかを書き込みたかったんですが、ストーリーに関係ない部分なんで割愛しました。

 

 汚物色の兵隊ですが、汚い・臭い・気持ち悪いという三拍子が揃っていて、Qちゃんの映画化(されませんけど)を阻む最大の要因ではないかと…。


 Qちゃんが、タヌキが守護霊になってくれたと言った後、瀞が「そうか、タヌキさんかいな」という台詞がありますが、父親として感じたどうにも微妙な気持ちを短く表せたらいいなぁと思ったのですが、どうでしょうか。



第12話 対決 タヌキ 対 村井

 とうとう戦いの場面を書く段階になって、かなり苦戦しました。登場人物の一挙手一投足を書き表すのはとても難しく、どうしても冗長になってしまって何度も書き直しました。

 タヌキが「マガジン読んどって…」と言ってますが、Qちゃんは従兄から単行本をもらって持っています。アニメの方を観て、単行本を読み返している時にタヌキも一緒に眺めていたというところです。Qちゃんは、実況するだけの語彙がなく、自分ができる範囲で精いっぱいの表現でした。



第13話 接点/退院

 安井の戦中・戦後という半生を、瀞・タヌキとの接点というところから書きましたが、駆け足過ぎたかも知れません。敗戦が決定的になっている時期の軍事機密の消滅・隠蔽が目的の任務でしたが、話の中で出て来た「暗号所の者」は誰だったのでしょう。片上の暗号所は、史実では昭和19年中に短期間だけ開所されて、三カ月ほどで閉鎖されているようです。


 村井が起こすポルターガイスト現象的なものは、安井にとってとばっちりもいいところです。村井についてももっと掘り下げて書き表そうかと思いましたが、推敲するとかなり酷いものになって止めました。


 山下刑事と片岡巡査ですが、登場させる前はもっととぼけたやり取りがあったりの面白いコンビみたいに書きたいなと思っていたんですが、なかなかそれを盛り込むところまでいきません。


「耳なし芳一」も「牡丹灯籠」も有名すぎて解説不要かも知れませんが、少しだけご紹介します。

「耳なし芳一」:平家一門の怨霊に憑りつかれた琵琶法師の芳一は、怨霊から免れるために全身に般若心経を写経されますが、経文を書き忘れた耳を怨霊にもぎ取られてしまいます。

「牡丹灯籠」:浪人の萩原新三郎との恋に落ち、漕がれて死んだお露が夜毎牡丹灯籠を下げて逢瀬を重ねます。真言とお札を授けられた新三郎が家中の戸にこれを貼って期限の日まで閉じこもりますが、新三郎は使用人に裏切られて、憑り殺されてしまいます。こちらは原作は明代(中国)の話だそうです。



第14話 なんでそこまで

 前話で、瀞が電話を掛けていた先は、三福荘だったようです。瀞が事情を説明して、安井への想いを語る中で雪上と敦子に不自然な反応がありました。

「Q編1 14話●みのるらしさ、さらに」で、まず、寄付の話を持ち込んでいます。もちろん車長持の件の礼もあったのですが、さらりと「祥子もきっとお世話になると……」と匂わせています。どの程度の金額を提示したのか不明ですが、祥子合格の確度をあげるために打った布石でした。また、帰り道の車中で「Qちゃんに養子に来てもらって……」と言いかけています。どうやら、ここから二人の「Qちゃんを養子にする作戦」が始まっているようです。

「本編 8話●習い事せんの?」で、姉さと子が続けている習い事を引き合いに出してQちゃんが再び三福荘に通うよう働きかけています。この辺り、下宮房子とは格が違うという感じですが、目的はまるで違います。

ところで、「本編 10話朗読「注文の多い料理店」」の冒頭、母・千鶴子は手製の肩掛けバックをQちゃんに持たせてますが、無意識かも知れませんが、Qちゃんが自分の子供であることを示す行動です。

三福荘にやってきたQちゃんへの敦子の対応はさすがで、いきなりべたべたしたりはありません。

父・瀞が迎えに来た時、追加の工事の件が話題になっています。「Q編1」のホテルの家電製品に続いて、洋銀の改装、左官屋が入った仕事、それに「また大きな工事の話」が来ています。人を雇うこと・法人成りすることを敦子が、それとなく促しています。瀞も「本編 11話●エレベーターを待つ間」で、「もう少し店大きゅうしても」と考えるようになっています。気心の知れた安井に手伝ってもらうという話になっていったのも影響があったのかも知れません。法人化の材料がどんどん揃って、雪上からの仕事に大きく依存する形で法人化した後で、断り切れない状況を作り上げた上で、養子の話を持ち出す。雪上の作戦はこの辺りだったかも知れません。そんな中で、今回安井を三福荘で預かる件が発生します。雪上にとっては、更に瀞に恩を売る機会でしたが、「なんでそこまで」と聞いたことで、雪上は瀞の心の内を知ることになります。その瞬間、雪上は狼狽え、敦子は自分勝手な恥知らずな考えに強く恥じて、いたたまれなくなってしまいました。



第15話 最極秘法

 ムライは、ドヤ街の暗闇に紛れてさまよう幽霊を襲っています。タヌキに砕かれた顎を治すこと(自分を癒すこと)には思いも及ばず、人を食い物にし、顎の傷口が開いたらその傷口から、自分の内部いっぱいに詰まった自分の欲望を物質として吐き出しています。

ムライの吐き出した札束と指輪を手に入れたチンピラの下りですが、ホステスに「宝石ちゃう」と否定された途端に、泥となり消えていきます。本物は誰が見ても見ていなくても本物です。欲に目がくらんで「札束」「宝石」と思い込んでいる間は形を保つようなもの、言い換えればムライによって、価値があるかのように見せかけられた偽物でした。

 夢の中で、小獅子が文殊菩薩様の真言を紹介していますが、五字文殊・六字文殊などもあり、八字文殊は最極秘法です。



第16話 6月10日 

 前夜に三福荘を訪ねた時に、樹は雪上に「顔色悪いけど」と気遣われています。今日も夢見の上で、学校でもぼーっとしているのは、どうやら疲れが蓄積しているようで、春ちゃんにも指摘され、代わりに授業を受けてくれています。そこから野洲ひろしの幽霊が学校に登校してくるという恐ろしい出来事が起こります。

ところで、朝、春ちゃんの検索が上手く進まないところは、ちょっと今後の伏線です。

 1971年の阪急ブレーブスは一年を通して強く、四月下旬からの10連勝、五月下旬からの15連勝で独走に近い展開で優勝しました。



第17話 袈裟懸けの傷

 Qちゃんは、疲れもあってか登校した時から、ぼーっとしたり考えごとをしたりして、ついに立たされてしまいます。こんな場面でも春ちゃんがいるおかげで救われることになります。

 野洲母子が教室に逃げてきた時、春ちゃんは「バーン」ができませんでした。これまで、この力そのものは春ちゃんの持つ力(樹の体に入ろうとする別の霊を排除するため、消滅させる力)と思われていただけに、春ちゃんも「いつき、いつき!いつきぃー」と思わず声を上げています。Qちゃんが体に戻って「バーン」ができて、三人は除霊されますが、なぜか初めてガラス窓などが吹き飛ぶ事態に及びました。

 Qちゃんは、医師の診察の間にまた力尽きてしまいます。医師にとって、「タヌキさんとライオンさんに聞いとく…」はとても幼い夢想状態のように聞こえていました。看護婦が言った「あら、軽い…」も今後の伏線です。

 山下刑事は、今回担当違いながら小学校の不審者侵入・爆発事件にやってきたことで、洋銀事件に向けた歯車が嚙み合っていくことになります。



第18話 いいこわるいこ

 野洲ひろしが言った言葉は、本当に無駄のない成仏に対する「礼」の言葉でした。しばしば周りに馬鹿にされてきたQちゃんに「すごかった」と言い、「こっち(あの世)くんな」「ぼけー(早く戻れ)」と伝えています。

 タヌキは、善財童子にかなり叱責されていたようです。無責任にQちゃんに丸投げしたようなものでした。一方でQちゃんは、野洲母子の死が自分の歪のせいだと泣きました。

 善財童子は、春ちゃんによるQちゃんの体の乗っ取りを危惧しています。そして春ちゃんにとって川は厳しく応えていました。

Qちゃんは、いくつもの葛藤を抱えたまま飲み込んでしまうような決断をしました。「お祭りの夢と同じだね」とQ編1の台詞を引用しましたが、あの時と同じ、「自分が探してあげたいと思ってる」、自分が行動するんだと決めました。第18話の最後の場面でおわかりいただいたかと思いますが、Qちゃんは、自分の力で歪をほどこうと走り出しました。



第19話 大事にならないようにする

 Qちゃんと春ちゃんは、どんどん二人でものごとに関わることにします。体には無理がかかっているため、すぐに眠ってしまうようになってきます。善財童子の言っていた「もたない」ようになってきています。

 善財童子の「大事にならないようにする」は、すぐ実行されました。

 テキサスの黄色いバラは、有名なアメリカ民謡です。歌詞の時代は、南北戦争前のアメリカ・メキシコ戦争(1846年―1848年)が舞台です。筆者は、yellow rose of Texasというお酒が好きで、その名前からこの民謡を知ることになりました。ドジャースが気に入っている曲という設定です。ドジャースはアラバマ生まれなんですが、同じ南部です。



第20話 「洋銀事件」まで

 Qちゃんには、もうかなり無理がきています。もちろん本人も春ちゃんも気付いていません。二人がかりで全開で行動しては眠ることを繰り返し、午前中にした約束を忘れてしまうような状態になっています。ただ、行動を起こしたQちゃんを守って下さる存在がついています。この方々の関わり方の違いを上手く書き表したいのですが、力不足です。

 母・千鶴子は、この勢い任せな状態のQちゃんを一年生の頃と重ねてしまいました。また、商いをしていると、急に用事が出来たからといって、なかなか店を閉めてでかけられません。



第21話 豪雨のムライ最終決戦

 Qちゃんの「全部話すで」の後半です。山下刑事との会話は、山下の解釈や確認が混じる上に、Qちゃんも春ちゃんから説明を受けながら話すので、わかりづらくなっているかと思います。また、タヌキも後半で気づきますが、敦子に文殊菩薩様、安井に善財童子が降りて会話をしていて、キャラクターがぶれているというか、お読み苦しいものになったかと思ってます。

 八字文殊の法ですが、本来はこんな武器のような使い方をするものではありません。このお札で霊と戦わないで下さい。



第22話 大嘘・歪の収束

 後書きも最終話になりました。Q編2は、第6話「砲弾ショック」で一旦区切りがついてしまった感じがしたのと、ここからの展開が本当に描きたいところだった割りに内容が自分では複雑になって、苦戦しました。

 敦子は、Qちゃんを養子にするという穣との計画を失い、Qちゃんや堺屋への贖罪の念を強く持っていました。その罪を救う機会を文殊菩薩様に与えられました。ただ、Qちゃんの拙い語りと、かき回すような山下を御して進める役割は敦子にしかこなせません。

 文殊菩薩様と善財童子は、Qちゃんと春ちゃんを引き離すこととムライの消滅を同時に実現するために動いていました。安井におりた善財童子は、予め安倍文殊院でお札を拝受し、銀を確実に最適なタイミングで三福荘に連れて行きました。最適と言えば、滝渕と幸子も引き返せないタイミングで帰宅しています。

 ムライは、銀・安井・Qちゃんの三人を囮に、おびき寄せられました。これはQちゃんの行動に乗った文殊菩薩様側の作戦でした。ただ、敦子の体がもたず、雷撃で仕留めそこなったことで、この作戦は狂いを生じます。この狂いは、Qちゃんの機転で持ち直します。

 ムライは、以前タヌキに砕かれた顎も雷撃で砕かれた左上半身も再生できません。それは自分の身を振り返らないためです。鞭のようなものを生やして、振り回しているうちに後付けで武器として役割を持たせた感じです。

 八字文殊の札は、魔除けであり霊を打ち滅ぼすほどの威力を持っていました。Qちゃんは、ある意味その辺りの深刻さを理解できずに札を拾い、銀に渡しました。

 ムライは、315号室でQちゃんの「バーン」を見たため、直接攻撃をせず、食いに食って溜めて来た霊の兵隊を吐き出す戦術でしたが、返って自分を取り戻していきます。滝渕に再会し、悪人としての自分らしさを再発揮します。

 山下も、実体化したムライに刑事として引導を渡しました。Qちゃんが言った「恨みごと言うていく宛あらへんで暴れてる」が大きなヒントになりました。山下は、ムライに自分をちゃんと悪人だと認識させました。ムライにとってそれは救いになりました。

 ムライが最後に嘘をついた理由は、窃盗未遂などではないと見栄をはったり、国庫や銀に金を渡したくない思いと安井への詫び料などもありました。

 蠟燭に火をつけた白い手が誰だったか、Qちゃんは知りません。ただ、右手だけで箱からマッチを取り出し、指で弾いて火をつけ、もう一回弾いて消すという手慣れた動きでした。

 このお話の最後で、Qちゃんは、小獅子と再会して終わります。小獅子が来たということは、タヌキのつなぎではなくなったということです。


 最後までお読みいただき、心から感謝します。ありがとうございました。

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Q 編2 みはらなおき @829denka

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