おかえり

蔵井部遥

第1話

 ちょっと早く着き過ぎたかな。まだ誰も来てないな。しかし、何年ぶりだろ、このメンバーで会うの。前に夏に帰省して遊んだ時以来だから6年ぶりか。みんな今は何してんだろ、元気にしてるかな。


 お、来た来た。吉田じゃん。久し振り!あんまり変わらないね。あー、山岡も一緒に来たのか。懐かしいなー。お前らいっつも一緒にいたもんな。今もつるんでるのかよ。


 緒方も一緒なのか、ご無沙汰だね。え、子連れ!? シングルマザーなの?結婚して旦那の浮気で離婚?全然知らなかったよ。めっちゃ優等生だったし、国立大学に行ってバリキャリになったって聞いてたからびっくりしたよ。ま、人生色々あるよね。


 おお、河野も!お前ちょっと老けたな。なんかおっさんになってない?割とパリピって感じだったのに。社会人になると変わるねー。


 うわー、佐伯さんだ。相変わらず可愛いなぁ。可愛い過ぎて誰も手を出せなかったんだよね。この前集まった時よりももっと洗練されて可愛いじゃなくて綺麗って感じになってるね。



 河野は今はイギリスで働いてるの?この集まりのために帰国したのか。なんだよ、知らないの俺だけかよ。言ってくれよな。迎えに行ったのに。


 吉田と山岡は一緒にベンチャー企業を経営してんのか。お前ら本当に仲良いよな。でもダメ元でも声ぐらいかけてくれよな。寂しいじゃん。


 緒方の結婚式の話ってなんだよ。そんなの聞いてねえよ。なんだよ、お前ら冷てえな。俺の知らない話多過ぎ。


「あいつもここにいたら良いのにな」

 え?山岡、他に誰か来る予定あったの?ああ、そうか仲間内だけのこじんまりした集まりじゃなくて同窓会的なやつなのな、了解。それならそうと言ってくれよ。


「盛り上げようといっつも馬鹿な事をやってたよな。文化祭の打ち上げの後にプールに飛び込んだのとかめっちゃ笑ったわ」

「そうそう、あの後、井上先生に滅茶苦茶怒られてたよな。全然関係ないのに吉田まで怒られてさ」

 ちょ、ちょ。誰の話よ。なんかそんな話もあった気はするけど。あんまり覚えてないな。


「さり気なく気を遣ってくれて、リーダーって感じじゃないけどみんなの取りまとめ役だったよね。結局頼ってた」

 佐伯さんもか。そんなやついた?


「女子の中では実は結構人気あったんだよね」

「あ、俺古田さんからも相談されたわ。相談に乗ってるうちに俺と付き合う事になったけど」

「なんか最後は成功しそうな雰囲気あったよな」

「中心じゃないけど、輪の中には必要な人間って感じだったな」


 お前らさっきから誰の話してるの?

 ていうか、俺さっきから会話が噛み合ってないんだけど。無視すんなよ。



「水野の七回忌か…。もうそんなになるんだな」



 ああ、戻ってきた。


 久し振りにみんなで集まって酔って騒いだノリで飛び降り自殺で有名なマンションに行ったんだった。

 俺、調子に乗ってさ、本当は怖いのに盛り上げようと思って先陣切って一人でエレベーターに乗って。最上階で降りたら初めて来たのに屋上までの階段の場所がすぐに分かったんだよね。絶対におかしいと思いながらついつい階段登っちゃって。開いてたら嫌だなって頭は拒絶してるのに止まらなくて、ドアに手をかけたら鍵も掛かってなくて。



 そしたらいたんだよね、アイツ。


 怖くて仕方無いのに目が離せなくてさ。目なんか無い黒い穴なのに俺の方睨んでるのが分かって。逃げたいのに足が動かなくて。


 なんかね浮いてんだよね、マンションの屋上の縁で。

 怖くてどうしようもなくて、涙とか汗とかダラダラ流れて、叫んで助けを呼びたいのに声も出なくて。


 よく見たらアイツの足元にも色んなのがいてさ。もう男か女か分かんなくなってるやつとか、頭が変な方向を向いてるやつとかね。あー、こいつが呼んだ奴らが死んでここに縛り付けられてんだって分かった。


 怖くて怖くて嫌なのに、ソイツの方に行ったら楽になれる気がしてさ。どんどん足が進んで、柵を越えて。そしたら足元の感覚が無くなって。



 それからずーっとここにいるんだよね。久々にみんなに呼ばれたから戻れる気がしたんだけど駄目だったな。



 アイツが後ろから見てる。見えないのに笑ってるのが分かる。


 どんどん近づいて来る。


 俺のすぐ後ろでじっと見てる。耳に顔を近づけてくる。




「…おかえり」


(了)




















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おかえり 蔵井部遥 @argent_ange1121

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