4

 それからしばらく月日が流れ、娘はお腹に子を宿した。王子は魔王が赤ん坊として生まれてくることを忘れてはいなかったが、娘とこれからも過ごせるなら王子にとってそれは些細なことであった。王子は時が経つにつれて、今まで手に入らなかった分、娘への愛をより深いものとしていたのだ。

 そして霧の深い肌寒い日、娘は産気づいていた。王子は出産の報告を今か今かと待っていたが、一向に連絡が来ない。あまりにも音沙汰がないのを不思議に思い、王子は娘のいる部屋へと向かった。部屋の前に行き耳をそばだてるが、何も聞こえない。どことなく胸騒ぎがした王子は部屋のドアをゆっくりと開くが、目の前に広がった光景に王子は思わず叫びそうになった。部屋の中は一面血の海となっていたのだ。ベッドに横たわる娘は腹を食い破られたようにして死んでいた。産婆や召使たちも血まみれで息絶えていた。そして、娘から生まれたのであろう赤ん坊だけが血を体に纏って笑みを浮かべ、宙に浮いて王子に近づいてきた。

「あなたのおかげで私はまた生まれることができましたよ。人間と交わって穢れた神の子から生まれるのはとっても快感でした! 王子、ありがとうございました。これでお互い、望みは叶いましたね」

 そう言うと、ケラケラと魔王である赤ん坊は声を上げて笑った。王子の頭の中で、あの時言い放たれた創造の神の言葉が蘇る。


 ――必ず後悔することとなる


 娘は確かに永遠に王子のものとなったはずだった。だがそこには、国が滅ぶよりも重い代償があったことを、王子はこの時になって初めて知ることとなったのだ。

 王子は何も言わずに静かに目を閉じる。部屋には赤ん坊の無邪気な笑い声だけが、ただただ響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

咎の王国 紺道ひじり @hijiri333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ