第3話

 ほうはくたるかしわざき救生病院の閉鎖病棟はあんたんたる雰囲気でございましたがおよそ十人程が喫煙できる『喫煙室』はぜんたいらす張りになっておりさんらんたる陽光が耀ようえいしていたのでくりの統合失調症で意識が混濁していたわたしはしゆんぷうたいとうたる雰囲気のなかで療養せんと終日『喫煙室』でばこんでおりました。きよくてんせきとしていたわたしは『おれはノーベル賞候補だけれども受賞の連絡がこねえんだ』というおなじく統合失調症らしいろうと『喫煙室』でかいこうしました。めいもうたるそうぼうろういわく『量子トンネル効果』から『人間のニューロン間のシナプスかんれん情報の波動関数にポテンシャル障壁をりよう』せしめられれば『窮極集合論的にこうかくされる宇宙間のポテンシャル障壁までをりよう』して『ほかの宇宙の自分のにくたいみずからのこんぱく=シナプス情報=こころをひようさせられ』るはずだというのでございます。『つまり『窮極集合』内の『自分』と『こころ』を交換し『もうひとつの世界』を体験できるはずなんだが――』というろうはつづけて『おれは一生をでらんねえろうけどもあんたが退院したらこれを発表してくんねかの』と墨痕りんたるろうの『研究ノート』の謄写版を譲渡してもらいました。正気をばんかいして退院したわたしはぎようこうなるしようがいしや年金二級をともづなに仕事量も制限しりようなる日々をけみしておりましたが三十歳を目前にして鬱勃たる虚無感にひようされて『ほかの人生もあったんじゃないか』と焦燥し『研究ノート』をほうふつとしました。『研究ノート』を疑心暗鬼を生じたまま読破したわたしはいんもうのインターネットで千状万態の部品を購入し四苦八苦しながら『研究ノート』どおりに『脳髄非侵襲型端末』を構築してみずからの頭部前頭葉かいわいに接続『端末』を愛用のVAIOと連動させてみずからのシナプスかんれん情報をモニタリングしていると複雑怪奇なる手足のまつしよう神経がしてゆきひやくがいきゆうきようけいれんたる脳髄がもうろうとしてゆく感覚にひようされました。ほうはいたる危険をおくそくして『端末』を遮断せんとしたもののけいれんするにくたいはフローリングにてんとうしわたしの意識は完璧に消滅しました。

 わたしはしゆうえんを覚悟致しました。

 から百億の世界のりよらんしようしたのです。

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