第5話 昇降口から出た足音

『あ、ちゃんと話しかけてあげるんだぞー!泣かしたら承知しないんだからな!』


永倉加奈江という第二の転生者から聞いた話を教室に向かうまでの間、頭の中でまとめていった。


・この学校に転校してきた過去の転生者は沖田総司・永倉新八・土方歳三の3人。沖田総司は2年生で他2人は3年生、しかも全員女性ということ


・本来ならこの生まれ変わりの技術では、過去の記憶は所有しているのだが、なんだか分からないが沖田咲夜だけ過去の記憶を所有していない。自分がなんのクローンなのかということは聞かされているのだが、彼女には覚えがない。

3年生2人に関しては昔の記憶を保有している


・そして最後にどんな形になろうと、沖田咲夜を妹のように可愛がるという決意があるということ。もし、思い出せないとして寂しさはあるが、それは過去に自分達が何をやったかを思い出すことなく済む。

きっと、凄惨な記憶は今の彼女にとって刺激が強すぎるから……


「あー、難しい話なんだよなぁ〜処理しきれないんだよぉ!!」


どうしてここまで彼女ら伝えてきたのか、俺には検討がつかなかったが今の問題はある程度、把握することができた。

そしてこれがどうするべきなのか、今俺が悩んでいることがそこだった。


「てか、なんか俺が沖田さんのことが好きだって認識で話を進められているけど・・・まぁ、その通りだし別にいいか。てか、なんで永倉さんにはわかったんだ?」


なんだろう、気配を読んだって言い回しをした方がいいのか?漫画でしかそんな表現を見たことがないけど、やはり血生臭い時代を生きてきただけあってそういった心理を読むことにも長けているのだろうか、もしそうだとしたら幕末の人々っていうのは、今と比べたらとんでもない集団だったのかもしれない。


「はぁ・・・とりあえず教室に戻ろう。腹が減った・・・」


先程まで考えていて忘れていたが、まだお昼休みなのだ。昼に買った物もまだ半分以上残っているだろう。教室の扉を開けて席に向かう。途中、横目で前に座る沖田咲夜の様子をチラ見したが無理した表情に見て取れた。


・・・・・・


「ほぉ、ということは正がこの前、コンビニで見かけた一目惚れの女の子っていうのが沖田咲夜さんことで、いまだに話しかけていないということだね?全く童貞はこれだから困るんだようなぁ~」


「うるせぇ、そこはどうでもいいだろう。なんか自然に話しかける方法でもあったら聞きたかったんだが、何もない感じなのか?」


お昼を食べ終わり少しした後、俺はこの悩みを居ても立ってもいられずいつものメンバーの青木紗耶香と風間景吾に相談を持ち掛けた。

俺と風間に関してはあまり、女子と話さないためこういった時に頼めるのは青木だろう、おれは何か状況が進展しないかと懇願する気持ちで彼女の答えを待った。

けれど、うーんうーんと悩み続ける彼女の姿を見ると何故だか望みが薄い気がして徐々に自分にこもっていた熱が冷めていく感じが出てくる。


「やっぱりわかんないや。普通に挨拶して仲良くなっていけばいいんじゃない?小手先の方法よりもそっちのほうが断然いいと思うよ。こそこそやるのは童貞っぽいし」


「・・・景吾はなにかないか」


青木に答えはよそに俺は、三人の中で一番まともそうな風間景吾に答えを求めた。あまり、この手の話題を彼の口から聞いたことはなかったが藁にも縋る思いだ、何かしら応えてくれるだろう。


「・・・率直な考えだが、俺も青木の答えに賛成だ。第一、好きな人がいるのだから積極的にならなかったら何をやったとしても通用なんてしないと思うぞ」


予期しない回答に言葉が詰まる。確かに彼の言う通りだ、二人して一番の解決方法を逃れてより簡単な方法を探している。彼が言った言葉が胸に刺さって何も言い出せない


「素直に声を掛けてみて、上手くいかなかったらまた方法を考えればいい。もし失敗しても別に彼女が何か言うような性格に見えないし大丈夫だろう」


そうか、そうだな・・・とりあえずやってみないとな


俺は風間からのアドバイスを胸に放課後を待った。1対1の方がうまくいくとの2人からの助言だったので素直に居室やトイレなどを行き来して放課後、彼女は一人になるところを調整していった

そして時計の針が3:50を示し、彼女は鞄を持って昇降口まで向かっていった。俺も自然を装って後をついていく。階段を下りて昇降口に向かっている、俺はいつどのタイミングで声を掛ければいいのか分からず彼女の後ろ姿を追うだけだった。


靴を履き替えて後は正門を出るだけ。俺には今日、話しかけないと何故かもうこんなチャンスは無いように気がしていた。喉まで出かかっていた声が何の拍子か、ふさぎ込まれた蓋を押して外に出てくる。


「あ、あの!沖田さん!!」


「うぇ!?な、ないか私に様ですか・・・?」


「えーっと、この前買った雑誌は大丈夫だった・・・?あのコンビニですごく悩んでいたじゃん」


「・・・やっと話してくれましたね。いつ話してくれるか待ってたんですよ?」


「え、それってどうゆう・・・」


「だって同じクラスじゃないですか!私から話しかけるのも勇気がいるのでずっつと待ってたんです!!ごめんなさいね」


そういってクスクスと笑う彼女を見て俺は安心感しかなかった。急に話しかけられて無視されたらどうしようなんて思いこんでいたからだ。


「あの、良ければ途中まで一緒帰りませんか?少しお話もしたいですし」


「お、おう!今行くよ!」


そういって靴を履き替えて昇降口を出る。

この一歩が俺にとって大きなものなのは言うまでもなかった




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