第3話 2人目の転生者

沖田総司


幕末を生きた歴史上の人物。京都の新撰組という幕末に存在した浪士集団で京都の治安を守った者たち。

そして、沖田総司はその中でも最強候補に上がるほどの剣の腕前を誇り1番隊組長として20歳ほどの若さで勤めたほどだった。池田屋事件など数多の新撰組の戦いに参加していたが程なくして病に臥せて以降は闘病続きになりあまりの若さでこの世を去った男。そして、うちのクラスに転校してきたかの天才剣士は、よく漫画に描かれているような美形の天才剣士ではなく小柄で刀剣など似合わない出立ちの少女だった。まぁ、美形という点は当てはまっているだろう。

しかしそれ以上に驚いたのが、あの夜コンビニにいた少女が再び顔を合わせたという事だった。俺があの日にときめいた彼女はまさかかの有名な沖田総司だったとは。

彼女も俺のことを見つけ目線が合う。休み時間になり、席を立って俺の方へ近づこうとした彼女だったが一気に他の生徒に囲まれて姿が見えなくなった。

それはクラスメイトだけでなく他クラスの生徒まで廊下に押し寄せてくるほどに。みんなテレビやニュースなどでは存在を知っているも、実際に生で見ることは初めてだったのだろう。まさにスターがきたような状態で結局のところ俺は彼女と話すことなどできなかった。


「という感じなんですけど、どう思いますか」


「いや、どう思いますかじゃなくてさ。俺休憩中なんだけど・・・」


その日の夕方、俺はいつも通りコンビニに立ち寄り、買い物をし終わると外でタバコを吸っていた高田さんに声をかけて今日あった出来事を話していった。彼は、自分の休憩時間がつぶされると思っており、あまり聞く気がなかったが買っていたホットスナックで買収ししぶしぶ高校生の話を聞き続けていた。


「まぁ、でもこの前来た女の子がまさか有名な沖田総司のクローンだったとはね。てっきり前世と同じ性別で転生していると思ったら・・・偉い人が考えることは分からないもんだな」


「ほんとだよ。でも綺麗だったな~、さすが美少年だった人だよ。性別が変わったとしてもそういったところはちゃんと引き継がれている」


「でもさ、沖田総司なんて言ったら無茶苦茶強かった人だろ?刀振り回して池田谷事件だっけ、あそこでは何人も切り殺したっていう。もしかしたら見た目は可愛いけど中身は腕っぷし最強なのかもしれないな」


確かにそれは思っていたことでもあった。今の世の中、刀なんぞ帯刀していたら銃刀法違反で捕まるわけだし木刀でも怪しまれるだろう。彼らが生きてきた時代からもう200年以上も時間が経過している。時も流れて当時と今とでは大きく様変わりした、多分そのことに関しては彼女らも知識は持っているはずだが長物などを手に持って大立ち回りなんぞしたら手に負えないだろう。最悪、死人が出るかもしれない。


「まぁ、仲良くなるんだったら程々にしな。もし、怒らせたりしたら切られちゃうかもしれないからね」


「物騒なことを言わないでよ・・・」


そういって彼は休憩時間が終わったのか店内に戻っていった。

ふと、空を見上げて考え込む。彼女はどれだけ前世の記憶を持っているのだろうか、それも気になるところだが、俺には一つ思うところがあった。


「確かお姉ちゃんがいるんだったよな・・・」


実際の史実にも沖田総司には姉がいた。けれど剣の腕が良いわけではない、ただ普通の一人の姉として彼を見守っていたはず。それに彼だけが転生したとは考えられなかったのだ。

きっと他にも生まれ変わっている人がいる。青木が言っていたが三年生にも転校生がいるということを・・・


☆☆☆


転校してから数日が経ち、彼女を取り巻く人だかりの群れは数を減らしていったが如何せん、校内を歩けば彼女に声を掛ける人は未だに多数存在していた。

そして俺は彼女と未だ話したことがなかった。いや、正確に言えば挨拶は交わしている。けれど、登校してきて彼女とすれ違った時ぐらいだ、基本的には同じクラスメイトとして声を掛ける程度で初めて出会ったあの日以来まともに言葉を交わしていないかった。


「ねぇ、いつまでそうやっているのさ。咲夜さんとは会ったことがあるんでしょ?だったら直接、話しかけてみなよ。他の人と違って初めましてじゃないんだからさ」


「それは分かってるよ・・・けど、あそこまで大人気な状態で話しかける気が起きないだけ」


ため息交じりにこの状況を呆れてみているのは、親友の青木紗耶香であった。なにせ、彼女の転校初日に俺が初対面の人とは明らかに違った反応を見せたことから感づいたからである。そこで、すべて話すやいな「それは恋だね!」なんて話しながら応援するよ、なんて言うもんだから今の俺の状況に耐えられないのだろう


「はぁ、、、別にいいけどさ。そのうち取られちゃんじゃないの?彼女可愛いし美人だし相手には困らないと思うけどな~」


確かに今なお話しかけられる彼女は入学して1週間も経つが人が絶えない。お昼だってクラスの人気者グループと一緒にいたりするし、放課後だって話し込んでいる。

けれど、俺はその姿が何だか楽しくなさそうに思えてしょうがなかった。無理矢理、合わせているというか何というか社交辞令を感じていたのだ。


「俺、飲み物買ってくるわ。お昼少し遅れる」


そういって席を立ち1階の自動販売機まで向かった。クラスを出るときに彼女と目が合ったのは偶然と思い込むようにして・・・



「何やってんだかな・・・」


好きな人に話しかけることも出来ない。こんな近くにいるのに挨拶程度が限界なところが自分が男として情けなくなる。

購入した微糖コーヒーに口をつける。苦くもない甘めな味に堪能していると後ろから声を掛けられた


「へぇ~~、こんな優男君なんだ。咲夜ちゃんが言ってた人って」


くせ毛だろうか、髪の毛全体に艶ありつつもストレートではない髪質。短髪ではあるがすごく似合っており纏っている雰囲気も少し勝ち気な感じに見える

そしてなぜだが彼女は俺のことを知っている素振りで話しかけていたのが気になっていた。


「あのどちら様ですか・・・?」


「あー、ごめんごめん。名前は永倉香奈江(かなえ)みんなからしてみれば永倉新八と言えばわかりやすいかな?沖田咲夜のお姉ちゃん的な立場の人だよ」




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