信じてくれなかった彼女とはもう関わりたくない

ハイブリッジ

第1話

部活終わり、彼女の錦織にしこりしずかに話があると空き教室に呼び出された。


「こんなところに呼び出してまでの話ってなんだよ?」


「君さ私に黙ってることあるでしょ?」


「ん? ないよそんなの」


「……最低。後輩くんにレギュラーを取られそうだからってこんな酷いことするなんて」


「何の話だよ?」


「しらばっくれるんだ。こんな動画があるのに」


 しずかから見せられてのは部活の後輩が男子生徒に殴られている動画だった。


「な、なんだよこれ……」


「まだとぼけるの? 後輩くんを殴ってるの君でしょ?」


「はあ? 俺じゃねえよ。俺がこんなことするわけないだろ!」


「……後輩くん泣いてマネージャーの私に相談してきたんだよ。君が怖くて誰にも相談できなかったって」


「あいつ……」


「どこ行くの?」


「あいつと話してくる。どうしてこんな嘘吐くのか聞かないと────」


 パチンッと乾いた音が教室に響き渡る。初めは何が起こったのかわからなかったが、どんどんと頬に痛みが出てくるとようやく叩かれたと頭が理解し始める。


「…………しずか?」


「最低だね。そうやってまた後輩くんのこと殴りに行くんでしょ」


 淡々と話しているがしずかの声には怒気を含んでいた。明らかに俺のことを軽蔑している様子だ。


「……なんであいつの肩を持つんだよ。俺はやってない! 信じてくれしずか!」


「信じるも何も動画に映ってるの君じゃん。どう信じればいいわけ?」


「後輩が俺を騙すためにやったんだと思う」


「なんで後輩くんが君を騙すの? 後輩くんがやったていう証拠は?」


「そ、それは……」


 必死に考えるがしずかが納得してくれそうな証拠はなく、言い淀んでしまう。


「ほら言えないじゃん。そんな奴の事を信じてくれって言われても信じられないよ」


「ほ、本当にやってないんだって! しずかにだけは信じてほしいんだ! 俺がやってないって証拠見つけるから。だから────」


「信じられるわけないでしょ。もう君とは関わりたくない」


 とても冷たい目で俺を見つめるしずか。


「し、しずか……」


「さようなら。二度と話しかけないで」


「…………」





 ◼️




<学校終わり>


 しずかと別れた後、俺の学校生活は一変した。


 次の日には俺としずかが別れたことが部員に知れ渡った。加えて後輩が俺たちが別れた理由を添えてあの動画を部内に拡散させ、部活に出ていくと後輩をいじめる悪い奴として冷たい目で見られ、練習では激しく削られて膝の古傷が再び悲鳴を上げた。


 小さい頃からサッカーが好きで続けてきたが日に日に身体も心もボロボロになってしまい、限界になった俺はサッカーを辞めてしまった。


「はぁ……」


 サッカー止めて一週間経ったが、この一週間は本当に脱け殻みたいな生活をしている。俺はこれからどうすればいいんだ……。


「ため息吐くと幸せが逃げていきますよ」


 屋上で一人過ごしていると後ろから話しかけられる。振り向くとそこにいたのは後輩の広瀬だった。


 一年間前くらいに広瀬がいじめられているところをたまたま見つけて助けた時から、広瀬とは仲良くなった。


「いいんだよ。俺には幸せなんてやってこないし」


「悲しいこと言わないでください。先輩も幸せになれますよ」


 広瀬はそう言いながら俺の隣まで歩いてくる。


「先輩、どうして部活辞めちゃったんですか?」


「お前には関係ないだろ」


「確かに関係ありませんね。でも先輩のことが心配だから知りたいんです」


「………………」


「吐き出した方がスッキリすることもありますよ?」


「…………どうせ話しても信じてくれるわけない」


「信じますよ」


「…………えっ」


「信じます。私は何があっても先輩の事を信じますよ」


「…………」


「先輩が私の事を助けてくれたように今度は私が先輩の支えになりたいんです。私は何があっても先輩の味方です」


 真っ直ぐにとても綺麗な目で俺を見つめる広瀬。


 しずかや部員のみんなのあの冷たく蔑みの目とは違う。本当に俺のことを信じてくれている真っ直ぐな広瀬の目。


「話したくなったらいつでも話してください。何時間でも付き合うので」


「………………ありがとう広瀬」


「いえいえ」


 泣きそうになってしまった俺の背中を広瀬は優しく擦ってくれた。




 ◼️




 部活を辞めてから1か月後、俺は広瀬のおかげで何とか立ち直ることができた。ずっと俺のことを信じてくれた広瀬には感謝してもし足りない。


「あ、あのさちょっといいかな?」


 教室を出るとしずかが話しかけてきた。


「…………」


「ちょ、ちょっとだけでいいの。君と話がしたくて……」


 無視して行こうとするが呼び止められる。


「二度と俺とは話したくないんだろ?」


「そ、それは……ほ、本当にごめんなさい!」


 謝るしずかを横目に俺は靴箱へと向かった。




 ────




「私、君に謝りたくて……」


「…………」


 帰り道にまで付いてくるしずか。無視をしているのだがしずかは話すのを続ける。


「君が部活を辞めてからね、後輩くんの距離が近くなってきたんだ。止めてって言ってもまだ落ち込んでるから慰めてほしいって言われてなんかなあなあになっちゃって……。

 そこから私の事を自分の彼女だとか部活のみんなに言いふらしてたの。」


「…………」


「それで何か怪しいなって思ってたらこの前……試合の打ち上げの時にたまたま聞いちゃったんだ。あの動画とか全部君を嫌われ者にするための作戦だったって」


「…………」


「あの動画も後輩くんと友達が作ったやつで殴ってた男子も君によく似た人を準備してたり……。

 それで問いただしてみたらね君からレギュラーは取れないし、マネージャーの私と君が付き合ってるのも気に入らなかったっていうくだらない逆恨みだったの」


 歩いている前に割り込んでくると頭を下げるしずか。


「君のこと信じてあげられなくて本当にごめんなさい!」


「………………もういいか?」


「えっ?」


 頭を上げるしずか。


「もう話は終わったのか?」


「えっ……う、うん」


「そっか……」


 しずかには目もくれずその横を通り過ぎる。


「ま、待って!」


「……なんだよ」


「あ、あのね……また君とその、やり直したいの!」


「…………」


「都合良すぎなのはわかってる……。でも今度は絶対に君を疑わないし裏切らない! 君以外の人の言葉には耳を貸さないから!」


「はあ……」


「だ、だからもう一度私にチャンスをください! お願いします!」


「ごめん。もう無理だ」


「む、無理って……」


「チャンスをくださいとか無理に決まってるだろ。だってお前はあの時俺にチャンスをくれなかったじゃんか」


「そ、それは……」


「なのにお前にだけチャンスをあげるとか……そんなの無理だ。申し訳ないが俺はそんなに心が広くない。ごめんな」


「じゃ、じゃあどうしたら許してくれるの? ど、どうやったらまた彼氏になってくれるの?」


「許すも何ももう俺はお前や後輩、部活の奴らとは関わりたくないんだ。だから俺のことは忘れてほっといてほしい」


「か、関わりたくないって……」


「しずかたちのこと見ると……色々思い出して吐き気がするんだ。部活辞めて最初は食べても全部戻しちゃうし、膝の怪我も悪化して治る頃にはもう高校は卒業だって言われたよ」


「う、うそ…………そんなこと」


「はぁ……。頼むからもう話しかけないでくれ」


「えっあ、ま、待って!」




 ■




<別の日>


「お、おはよう」


「…………」


 通学路の途中でしずかが待っていたが構わず素通りする。


「い、一緒に学校行きたくてさ。ずっと待ってたんだ」


「…………」


「今日のさ放課後とか時間あるかな? き、昨日のことで話がしたくて」


 あの日以降も無視をし続けているのだが、しずかは変わらず話しかけてくる。


「…………」


「…………っ」


 明日からはもう少し早く家を出よう。




 ────




<別の日>



「も、もしかして君のスマホ壊れてたりする? 昨日も連絡したんだけど……」


「…………」


 最近、朝夜関係なしに謝罪のメールが大量にしずかから送られてくる。電話もかけてくるときもあるが全て無視している。


「い、忙しいと思うけどちょっとでもいいから返信くれると嬉しいな……なんて」


「…………」


「……い、いっぱい連絡しちゃってごめんなさい。め、迷惑だったよね。


 で、でも謝りたかったし、あとやっぱり関わりたくないっていうのは私的に嫌っていうか。君と話せなくなるのは耐えられなくて」


「…………」


「ま、待って」


 めんどくさいのでブロックしておこう。




 ────




<別の日>


「ね、ねえねえ。こ、ここのお店にね、前に君が欲しがってたスニーカーが入荷したんだって! よかったら一緒に行かない?」


 しずかがスニーカーの写真を見せてくる。


「も、もし他に欲しのがあったら全部私が買うよ? 君のためにバイトしてお金を貯めてるんだ、ほら!」


 財布から一万円を何枚も出すしずか。


「も、もちろんこんなことで許されるとか思ってないよ。で、でも何か君のためにしたいの」


 ……正直とても迷惑だ。関わらないでくれた方が何億倍も嬉しい。


「…………」


「………………ぅぅ」




 ────




<別の日>


「…………っ!?」


「えへへっ。ご、ごめんねびっくりしたよね」


 広瀬と買い物の約束をしているので家を出ると家の前にしずかが立っていた。


「……なんでここにいるんだよ。ていうか部活はいいのかよ?」


 この時間だとテスト週間とかではない限り部活があるはずだ。


「もう行かないよあんなところ。だって君と一緒にいたくて入ってただけだもん」


 さも当たり前のように話すしずか。


「…………」


「あ、あのね……ど、どうしたら君に許してもらえるかな?」


「言っただろ。もう関わらないでくれって」


「そ、それは嫌なの。私はもう一度君と恋人になりたいの」


「…………」


「き、君がやりたいことは何でもしてあげるよ! 付き合ってた時は恥ずかしくてできなかったけど、今は君になら何でも捧げられるから──」


「あのさ」


「な、なに?」


「俺、彼女いるんだよ」


「えっ……か、彼女?」


「うん」


「か、彼女って……えっどうして。えっ……え? い、いつ? だ、誰なの?」


「……うちの後輩。その子は俺のことをずっと信じてくれたし支えてくれた。この前俺から告白をして今は付き合ってる」


「う、うそ……だって」


「もう俺には近づかないでくれ。彼女に誤解されたくない」


「い、いや……お、お願いします!! もう一度だけチャンスをください! 今度は何があっても君だけしか信じないから!! お願いします!!」


 涙を溢しながら深く頭を下げるしずか。


 …………もう遅いんだよ。


「……ごめん。俺はしずかにあの時信じてほしかったんだ」


「あっ……ぁあご、ごめんなさい。ごめんなさい」


 しずかがその場で泣き崩れる。


「い、いやだ。お願い待って、待ってよ……行かないで」


「じゃあな」




 ────




 …………なんで信じてあげられなかったんだろう。彼を信じてあげていれば今彼の隣にいるのは私だったはずなのに。


 もう彼を支えてあげれない。もう彼と一緒に歩けない。もう彼と手を繋げない。


 もう彼の彼女になることができない。


 嫌だ…………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 どうしたらまた彼の隣にいることができるの? どうしたら彼の彼女に戻ることができるの?


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そうだ。彼を救えばいいんだ。


 彼がまた追い込まれて絶望すれば、今度こそ私は絶対に彼を信じてあげられる。支えてあげられる。


 そして救ってあげれば彼は私だけを信じてくれるようになる。また彼の彼女になることができる。


 そうだよ。それがいいよ。そうしよう。


「…………あはっ」







 終わり

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