第12話 私の童話が出た時には・・・

その夜、部屋で泣いて、また泣いて..


涙がおさまると書棚にある絵本『雨粒の中の妖精たち ショーン・J・バック』を手に取り読み返した。


それは森の大木と妖精たちの話だった。


◇◇◇◇


古くから森にすむ老木は、森が小さくなるのを嘆いていた。

幹が崩れかかっている自分ではなく、木こりたちは若木を切っていってしまうのだ。


老木は悲しんだ。


年老いて花を咲かすことが出来なくなった自分では森に何も残せない。

老木はそのあまりの悲しみに体を崩しながら涙した。


老木の中に何百年も住んでいた妖精は話し合った。

妖精たちは老木が流す涙に入って、土の上に落ちた。


すると土の中から小さく若々しい芽がでてきた。


妖精たちは老木に語り掛ける。


「僕たちに長い間恵みをくれたお礼だよ 」


その言葉を聞くと老木は嬉しそうに枝を鳴らしながら土の上に横たわった。


やがて芽は幹となり森はさらに豊かになった。


◇◇◇◇


枕もとで絵本を眺めながら万理望はいつしか眠りについた。


・・・・・

・・


翌日、飛び出していったことをおばあちゃんに謝った。


おばあちゃんは私の腕を優しくなでると、美澄さんと優香さんの過去について話してくれた。


美澄さんは婚約者の優香さんを乗せて首都高速を走っていた。

カーブに入った瞬間、物凄いスリップ音とともに中央車線を大きくはみ出した車と接触。


車は大きく横転する。

美澄さんは軽傷だったものの優香さんは頭に重傷を負ってしまった。

そして3年もの間、美澄さんは病院へ通い、優香さんが好きだった童話や絵本を読み聞かせていたという。


もともと青葉書店のお得意様は優香さんだったのだ。


「でも、おばあちゃん、美澄さんには責任ないじゃない! 」


おばあちゃんは『そうだね』と言ったきりだった。




翌々日、再び美澄さんが訪ねて来た。


私は店番をおばあちゃんに任せて美澄さんと公園でお話した。


「美澄さん、この前はごめんなさい 」

「こちらこそ店にご迷惑をおかけしました 」


「そんなことないです....

美澄さん、私、美澄さんの事が好きでした。そして今も好きです 」


「 ありがとう 」


「あの.. これ、私が書いた童話です。まだ話は途中のもあるけど。読んでもらえませんか? 」


美澄さんは黙って私の童話を真剣な眼差し読んでくれた。



「凄くいいです。何となくレジーナ・シャルマンの香りがしますね 」



その言葉がうれしかった。

自分でレジーナ・シャルマンみたいな童話を書きたいと思っていたからだ。


「美澄さん、私、童話作家になろうと思っているんです。それが叶うかどうかはまだわからないけど、いっぱいがんばろうと思ってます 」


私は思いっ切り美澄さんの胸に抱きついた。


「だから...だから私が書いた童話が出たら....絶対、読んでくださいね 」

「うん。絶対に読ませてもらうよ 」




美澄さんは1週間後に優香さんとともに静岡県に引っ越した。



おばあちゃんの話だと優香さんの意識は事故後から徐々に良い方へ向かっているという。

ここに来た優香さんを見て、おばあちゃんは驚いたらしいのだ。



美澄さんと優香さんのおかげで知ることになった童話の世界。


私は今日もノートに童話とイラストを書いています。




そして青葉書店は今日も営業しています。




「青葉書店開店します。~万理望の恋事情 完」

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青葉書店開店します。壱『万理望の恋事情』 こんぎつね @foxdiver

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