【一話完結】転生者が増えた理由〜神様からの贈り物は必要のないスキルです

宇水涼麻

【一話完結】転生者が増えた理由〜神様からの贈り物は必要のないスキルです

 ティッティリッティティー!


 青年の頭の中にいきなり喜びを伝えるような音楽が流れた。


「はあ??」


 青年は斜め上の方を右に左にと確認するが何もない。


 と、青年の視界が真っ白になって青年は思わず目をギュッと閉じた。


「こんにちは!」


 可愛らしい声に片目からゆっくりと目を開く青年。真っ白な世界が広がっている。

 そして、目の前には金髪金眼色白のアイドル並に可愛らしい女の子がいた。その女の子の服は真っ白なキトーンで膝丈、履いているサンダルまで真っ白。丸見えな腕も丸見えな膝下も真っ白だ。


 そして、何より、背中には真っ白な羽が見えた。


『あれは背負い物か? まさか本物か?』


 青年はツッコミところが多すぎて何も口に出せなくなっていた。


「おめでとうございます!

貴方様は善人プレゼントキャンペーンに当選いたしましたぁ!!」


『ドンドン パフパフ』


 どこからか効果音まで聞こえてくる。


「なんですか、それ?」


「神様がこの人は善人だなぁと思った人の中から抽選でラッキーボーナスを与えちゃおうというキャンペーンです!」


 やたらとテンションの高い白い人。


「まず貴女は誰ですか?」


「え? えーーーーー!!!

これ見て私が誰かわかりませんか?」


 白い人は手を肩まで上げるとクルクルと二回回って全身を青年に見せた。


「ね! 私、天使です!」


「いや、多分天使は職業の名前で、誰という質問には半端というか片手落ちというか……。

ああ、でも、配達の人は会社名しか言わないかぁ。えー、でも、会社名言っているってことは固有名名乗っているし。配達の人が『ドライバーです』って名乗ったら信用できないよなぁ。

まあ、いいや。夢に文句言ってもしょうがないしな」


 青年は一人でブツブツ言った後頭を上げた。


「で? 何でしたっけ? 何とかキャンペーンですよね?」


「善人プレゼントキャンペーンです!」


「俺、善人じゃないですよ」


「善人ですよぉ! 危ない思想を持っていませんし、人や動物を攻撃するような考えもありませんし、誰かを困らせるような行動もしませんし、毎日お仕事していますし、国にも貢献していますし」


「それって、多くの人に当てはまると思うのですが?」


「そ、そうですけど、その中から当選なさったのです!」


「応募していませんよ?」


「神様が善人と認めた方全員が対象です!」


「うわぁ。勝手だぁ。名簿購入した詐欺みたい」


「………………」


 天使も動きを止めた。

 二人は無表情で見つめ合う。


 愛は芽生えない。虚無。


 天使が我に返った。


「と、兎に角! 当選おめでとうございます! 神様から貴方様へプレゼントがございます!」


「プレゼントの内容を聞いてから受け取るかどうかを決めます」


「はい??」


「中身もわからないのにホイホイと受け取れません」


「神様からですよ? いい物に決まっているじゃないですか?」


 天使は青年の発言に肩を上げ目を見開いて驚いた。


「イヤイヤ。知らない人からの贈り物にいい物なんてあるわけないじゃないですか?」


「し、知らない人ぉぉ!! 皆さんには見えないだけで、皆さんは神様にお世話になっているのですよぉ!!」


 天使は拳を握りしめて一生懸命に主張した。

 神様の存在を懸命にアピールする天使。青年は小さくため息を吐いた。


「あの。もう、この件飽きたので次へ行きましょう。

で? 当選するとどうなるのですか?」


「あ! それはですねっ!」


 天使は打って変わって目を輝かせた。


「貴方様に錬金術士のスキルを与えます!

ね? すごいでしょう?」


 天使は両腕を脇に当て鼻高々に伝えた。


 青年は冷静だ。


「は? いりませんよ。そんなの」 


「ですよねぇ! ラッキーですよねぇ!

って! え? いらないって言いました?」


 天使は腕組み納得ポーズからのツッコミ。お笑いの基本のようなリアクションだ。


「言いました。いりません」 


 それに対して青年は全く素っ気なく芸人の才は無さそうだ。


「なんで?? 錬金術士ですよ! 何でも作れちゃうんですよ?」


 天使は今度は錬金術士のアピールを必死にした。


「それ作ってどうするのですか?」


「使うのです」


「使いたいと思うものは買っています。ネット注文ですぐに届きますよ」


「それが壊れたらスキル使えるじゃないですか!」


「それまで使えないスキルですよね?」


「じゃ、じゃあ、何か作って売るとかっ!」


「売るためにどうするんです? フリマでもしろということですか? それともフリマアプリに登録ですか? そんなの面倒だし、俺、接客向きじゃないし」


「イヤイヤ、大量に売って儲けて!」


「それって材料費やら経費やら人件費やらかかるし、人を雇ったら『これをどうやって作ったか』を説明しなくてはいけないし、申告しなくちゃならないし、万が一爆発的な売上出たらそれこそ製造過程に興味持たれるし。

無理ですね」


「な、なら、いっそのこと、お金を作っちゃえばいいんじゃないですか?」


「えーーー!! 俺に犯罪者になれって言うんですかぁ?」


「とても精巧なのでバレませんよ」


「それを使う時のバレたら恐怖感と罪悪感を毎回持ちながら買い物なんて嫌ですよ。

それに、収入に合わない買い物したら怪しまれますから大量には使えません」


「大量に作ってばら撒いちゃえば?」


「経済を混乱させる罪人じゃないですか。善人じゃなくなりますよ」


「………………。!!!!

なら、家作っちゃうってどうです?」


「土地はどうするのですか? 俺、土地買う金なんてありませんよ」


「流石に土地はプレゼントできませんねぇ……」


「万が一、土地があったとして、そこに家作ったら役所が飛んで来ますよ。どうやって説明するのですか?」


「説明? 必要ですか?」


「当たり前じゃないですかっ! 誰に建ててもらったとか、建築基準法とか、建造物取得税とか、固定資産税とか」


「簡単にはバレませんよ」


「役所は衛星写真で国民生活をチェックしています! 敷地に建物増えたら増税なので飛んで来ますって! 誤魔化したら脱税です。

善人じゃなくなります!」


 天使は腕を組んで考えこんだ。


「じゃ、じゃあ、アサシンスキルとかどうですか? 人とは違うことできますよ!」


「それって人殺しですよね? 殺したい人なんていませんし、そんな仕事嫌ですよ。

犯罪者にはなりたくありません」


「………………なら、忍者?」


「え? なんで? 似たようなものでしょう?」


「イヤイヤ、忍者なら殺し以外のスキルも高いですよ」


 青年は眉を寄せ目を細めて声のトーンを下げる。


「この世の中に何台の防犯カメラがあると思っているのですか? 何にも映らずに何かするなんて不可能ですよ。 防犯カメラに見えにくいほどの人間が映っていたら怪しいでしょう?

現在のスロー解析舐めない方がいいですよ。

結局、その怪しい影が俺ってバレたら、国に保護されて実験台やら国の便利屋やらにされちゃいますよ」


「防犯カメラのないようなところに行けば?」


「森生活なんて嫌ですよ。なんで神様にプレゼントもらってキツイ生活にチェンジしなきゃならないんですか?」


「確かに、それはこちらとしても意味ないですね。忍者スキルで強盗?」


「は? 意味? 

てか、強盗? 防犯カメラの話、聞いてます? それにそれって善人じゃなくなりますよね?」


 天使の説得と青年の主張は噛み合っているようでいないようだ。


 天使はどんどん慌ててきた。

 

「な、なら、魔法士のスキルはどうですか?」


「魔法士?」


「火を出せたり水を出せたりしますよ!」


「火はライターもガスコンロもありますし、水は蛇口を捻れば出るしコンビニでも買えます。そんなスキル、サバイバルでもなければ必要ありませんよ」


「サバイバル! 楽しそうじゃないですかっ! って、それじゃ意味ないか……」


「意味ってなんです?」


「いえ、それは何でもありません。

あっ! 土魔法なら一瞬で畑が耕せますよ」


「農家にジョブチェンジの予定はありません」


「風魔法は便利ですよ!」


「それはそうかもしれませんね。でも、それだけのために魔法士なんて考えただけで面倒です」


「今なら月を壊せちゃうくらいの特大魔法付けておきますからっ!」


「は? そんなことしたら、引力変わって月の欠片が地球に降ってきちゃって、それが大きいものなら人殺しになっちゃったり、もっと大きく割れてしまった場合下手したら地球破壊になりますよ」


「それは困ります! こっちにいっぱい来ちゃうじゃないですかっ!?」


「はい?」


「あ、いえ、こちらの話です。

なら、ちょっと建物破壊できるくらいの力にしておきます?」


「だから、破壊する気はないですって! それも善人じゃなくなるでしょう?

さっきから、俺を善人じゃなくしたいんですか?」


「そ、そ、そ、そんなことあるわけないじゃないですか! 私は天使ですよ! 天国に来るべき善人な皆様の味方です!」


「……………………。

とにかく、いりませんよ」


「戦闘系スキルにします?」


「戦闘する機会なんてありません。現代で戦闘なんてしたら、ただの人殺しです」


「格闘系?」


「痛いの嫌いです。それに、神様からのスキルなんて普通の人と戦ったら相手は死んじゃうんじゃないですか?

俺をどうにか人殺しにしようとしていませんか?」


「ちちちちちち違いますよっ!」


 青年はジト目で天使を見ると天使は視線を外した。その態度に青年はわかりやすくため息を吐いた。


「はあ! とにかく、何もいりませんから」


「そこをなんとかっ!」


 天使が拝みはじめる。


「なら、プチラッキースキルをください。十年に一回くらい宝くじで三十万円当たる程度の」


「安っ!!」


「それ以上当たったら怪しいでしょう?

俺は普通に働いて普通に暮らして普通に死にたいだけです。

あ、五十年以上未来に、長期に苦しまないで、さらに残された者に迷惑をかけない死を望みます」


 はっきりとした青年の言葉に天使はたじろいだ。

 しばらく押し問答をして、結局、青年はプチラッキースキルを与えられて解放された。


 戻ってきた青年は何も変化を感じておらず、夢だと判断し、すぐに寝て翌日から普通に生活をする。




〰️ 〰️ 〰️


 青年と対峙した天使は神様に結果を報告した。


「かぁみぃさぁまぁ。また高等スキル、受け取ってもらえませんでしたぁ」


「何? なんと欲のないっ!」


「善人って本当に欲のない平凡の人間ばっかりなんですよぉ。平凡でいたいって言うんです。

だからって、森生活やらサバイバルされちゃったら、本当に罪人になんてならなくなっちゃいますしぃ」


「欲がなければ犯罪は侵さない。となると、天国で受け入れなければならない……」


「もう天国は満床間近ですよぉ。何か対策しないとぉ」


「だから、善人に欲を持たせようとしているのではないかっ!」


 神様はコメカミに指を当てて悩んだ。


 天使はこれまでのことを思い出し唇を尖らせた。


「現代の平凡な人のほとんどは善人ですし、善人はスキルを受け取りません。

いっそのこと悪人にスキルあげちゃいます?」


「悪人は元より地獄へ行くのだからスキルを与える意味がないわいっ!」


「ですよねぇ。月でもふっ飛ばされて大量に人が来ちゃったら大変なことになりますよねぇ。

青年曰く、今は何でも揃っているから何もいらないそうです。スキルもらって目立つ方が嫌だって」


「本当に欲のない……」


「何もないところなら役に立つかもしれないけど、今の彼には必要ないそうですぅ。

転生者ならなんとかって言ってましたぁ」


「……………………。

何? そこを詳しく!」


 天使は青年との会話シーンを神様の前にある大きな水晶に写した。


『現代はライフラインはしっかりしているし、生活も問題なくできるし、ちゃんと働きさえすれば生きることに困ることなんて早々ありませんよ。

あれがほしいこれがほしいで散財すれば苦しくなりますけど、それは自業自得ですし』


『だから、それをどうにかしてあげますってスキルですよ』


『罪人にさせられてどうにかしてあげたって言われても、それは違うでしょう?

全く……。転生者じゃないんですから』


『転生者?』


『今、小説で流行っているんですよ。不慮の事故とかで死んだらスキルもらって中世風の世界に飛ばされてこれまでとは違う生活するってやつ。

こんな便利な世界から、知り合いもいない生活も不便な世界に飛ばされたら、そのスキルってやつ欲しくなるかもしれませんね』


 水晶から青年の姿が消える。


「ほぉ! これはいいアィディアじゃないかっ!」


「不便なところに行く人にスキルあげでも罪人にはなかなかなりませんよ。根は善人なのですから。

かえって感謝されるほど人助けして他人を幸せにして幸せな善人増やしてしまいますよ」


「だが、この世界の天国には来ないだろう?」


「えーー! 違う世界の神様に丸投げってことですかぁ?」


「その世界とうちとは人口が違うのだっ! まだそちらの天国に空きはたくさんある!」


「それはそうかもしれませんけどぉ」


「その世界で悪人になった場合、そこに地獄がなければこちらに戻してもらってもよい。最近は地獄は床が余っているからな」


「地獄なら輪廻転生しないですし刑期が終わったら魂消滅ですから地獄は人口増えませんしねぇ」


「さらには人間界で懲罰を受けてくる者が多いから地獄での刑期が、まあ短い短い。すぐに魂が消滅してしまう」


「この前の罪人なんて地獄門通って二秒で煙になったそうですよ。人間界って地獄より懲罰辛いってことですか?」


「そのようだの。人間界では命が短いから、バランスでそのようになるのだろう」


「人間界で罪を犯すって大損ですね。人間界で罪を償っても地獄行きで魂消滅……。私なら罪人なんてやってられないわぁ」


「魂の消滅など人間は知らんことだ。

だが、天国の魂は消滅させらない。だからって輪廻転生を早めると仕事が多くなって天使たちが春闘起こすからそれもできない」


「私達を働かせるか善人の魂を飛ばすかですかぁ。神様こそが悪魔的ですねぇ」


「現代の天国を守るためだ。いたしかたあるまいっ!」


 それからこちらの神様とあちらの神様がどんな話し合いをしたのかは定かではないが、定期的に転生者を送れることになった。あちらの神様は遊び心で時には悪人も受け入れるという。よいスパイスになるそうだ。


 こちらの神様はたくさんの世界のあちらの神様たちと交渉してたくさんの転生先をゲットした。

 さながらエリート営業マンだと天使たちは思ったがそれは口には出さなかった。


 こうして亡くなった者の幾人かは、善人悪人に関わらず定期的に転生者となる。


 乙女ゲームなどによって新しい世界が生まれるたびに営業に赴くこの世界の神様の姿があった。


 時々、死んでないけど教室ごと転移受け入れ案件などがあると、神様も天使もウキウキで選定した。


「神様! このクラス、善人と悪人のバランスがいいですよっ!」


「いや、今回は善人のみのクラスの注文だ。選び直し!」


「はぁい」


 この世界の魂が減るためなら天使たちも率先して仕事をしたとかしないとか。


〰️ 〰️ 〰️


『あれ? これってもしかしたらプチラッキースキルって存在しているのかも??』


 その青年がそう考えるのは、三十年後。元青年のおやじが三回目の宝くじ三十万円当選をしたときだった。


「イヤイヤ、たまたま、たまたま。宝くじ購入金はそれ以上だしな」


 元青年のおやじは天使を全く信じていなかった。自分が転生者を増やしたなどとは気が付かず極々平凡に生きている。


 


〜 fin 〜




 ブラックコメディにチャレンジしてみました。難しいです。


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