同性の幼馴染を好きになるのはいけませんか?

あうんさん

第1話

こんなにも人を愛おしく思うなんて今までにあっただろうか。幼馴染だから、なんて言葉でこの気持ちは説明がつかないだろう。この気持ちに気づいたのはいつからだろう。いつの間にか私の気持ちは友情から恋心に変わっていた。

そんなことを考えているうちに今日も1日が終わった。

「藍香〜、一緒に帰ろ〜!」

「うん」

彼女―八乙女 七架(やおとめ ななか)―は曇りのない笑みを浮かべながら後ろの席の私に声をかけた。

「ねぇねぇ。帰りのホームルームの時に凄い模様の鳩が飛んでるのを見たんだよ!藍香にも見て欲しかったなぁ。」

「最後落ち着かなかったのはそのせいか。」

「えへへ〜。」

可愛い。今すぐにでも抱きつきたい。語り方が可愛すぎて内容が頭にあまり入ってこなかった。


「また明日ね〜!」

「うん。また明日」

そう言って藍香は手を振って家に入っていく。

どんな仕草でも可愛いなぁ。そんなことを思いながら自分も自宅に着いた。


「最近、藍香への思いが強くなってる気がするなぁ。」

そう。前までは可愛い幼馴染としか思ってなかったけど今では見る度に自分の胸の奥にある気持ちを自覚してしまう。

「告白、しちゃうかぁ。」

もういくら悩んでも仕方がないレベルにまで私の気持ちは膨らんでいた。藍香との関係は崩したくない。しかし、この気持ちは抑えきることが出来なさそうだった。振られることも覚悟出来たし、今この状態のままでいる事は振られる事よりも苦しいと思った。

明日告白する。そう決心して私は眠りに着いた。

「んぁ。もう朝か…」

実の所私はそんなに眠れなかった。理由は言わずもがな、告白すると決めたからである。

そんな状態で登校していた時、前に見慣れた人影が見えた。七架だ。向こうはこっちに気づいてないようだった。

私はいつも通り、七架に声をかけるために近ずいた。七架がこっちを振り向いた。

「っーーーー。………。」

私は上手く喋りかけれず、挨拶すらも出来なかった。七架の顔を見た瞬間、咄嗟に躊躇ってしまったのだ。

やばいやばいやばい!心臓バクバク言ってる!!私の顔には熱を感じ、体は火照り出してるように感じだった。

「おはよ〜藍香。藍香?どうした?」

「あ、いや。おはよう、七架。」

私の体は声をかけられた瞬間ビクッと震え、変に思われなかったか、と過剰なほどに不安な気持ちに襲われた。

そこから何を話していたか覚えていないが、いつの間にかもう教室に着いていた。ただ、この体の火照りが七架と一緒に居たことを証明している。

そこからも私は授業に集中出来ず、淡々と時間だけが過ぎていった。


× × × × × ×


気づいたら教室には私と七架だけで外を見ると帰ってる人や部活に行く生徒達が見えた。

「ねぇ藍香。今日ずっとボーッとしてたけど大丈夫?」

もちろん大丈夫ではない。まさか告白すると決めただけでこうも影響があるとは思ってもいなかった。

「あ、ごめん。大丈夫だよ。待たせてごめんね。帰ろっか。」

そういうと七架は頬をプクッと膨らませた。可愛い。

「何も大丈夫じゃないでしょ?何かあったなら私に相談くらいして?」

七架が可愛すぎるから迷ってるんだよぉぉぉぉ!とは口が裂けても言えない。私は誤魔化すように。

「本当に何もないってw」

「何も無いわけないでしょ?私がいつからあなたと一緒に居ると思ってるの?嘘ついてることバレバレだよ。」

まさか嘘も見破られてしまうとは。

そう思うと私は今自分が置かれている状況に気づいた。

放課後の誰も来ないであろう教室に2人きり。これはもしかすると告白するチャンスなのでは?というかここでするしかない。

そう思った私は言葉を何とか紡ごうとする

「あ、あのさ。七架。言いたいことというか言いたかったことがあるんだけどちょっといい?」

「何?何でも話して。」

「あ、あの。その……。」

いざ告白すると決めたはいいものも、言葉が繋がらない。言えない言えない!!

緊張で私の体は震え、言葉を発せなくなっていた。

「藍香、ほんとに大丈夫?体調悪かったりするの?」

その言葉を聞いて顔をあげた時今日初めて七架の顔をちゃつと見た気がした。

その顔はとても心配してることが分かり、愛おしかった。

自然と緊張は溶けていた。今なら言える。

「私、七架のことが好き。本当に大好き。」

「ちょ、ちょっと!?急にどうしたの!?そ、そりゃあ私も藍香のこと好きだけどさ。」

「違う、そうじゃないの。恋愛的な意味で私は七架のことが好き。その優しい性格も、可愛い顔も、全部好き。」

私は今とても清々しい気分になった。ここで振られてもいい。私は全てを伝えきった。そんな思いだった。

七架はずっと顔をうつ伏せたままだ。そりゃあそうだろう。突然の告白であり、しかも相手が幼馴染で、同性だ。

こちらのことを軽蔑しているのかもしれない。しかし、私は今とても満足感に溢れていた。

七架の顔がゆっくり上がり、そしてこう呟いた。

「あの、さ。ちょっと時間くれない?」

七架は笑って言ってくれた。しかしその表情の裏に激しい戸惑いがあることが分かった。

「わかった。気長に待ってるよ。いつでも返事良いからね。」

私達はこれで話を終わらせ、帰る事にした。しかし、帰路ではお互いに意識してるせいかずっと無言であり、七架の

「じゃあ、また、明日ね」

という元気の無さそうな声で私の1日は終わった。

私の行動は合っていたんだろうか。そういった思いが今更ながら浮かんできた。もう遅いとは分かっている。しかし、そう思わずには居られなかった。

「あー!もう!迷ってても仕方ない!全部七架が可愛いのが悪い!」

私はそう独り言を言うと、家に着いた。そこから私の思考はずっとふわふわしていた。正直、1分前の行動でさえ思い出せないと思う。ただ本能的にやるべきことをやって私は深い眠りについた。


× × × × × ×


学校に着くと、まだ七架は来ていなかった。いつも私より早く来ているのに珍しいなと思っていたら扉が開き、七架の姿が見えた。

結局放課後まで七架と言葉を交わすことは無かった。

七架の顔をよく見たら目の下にはクマが出来ていた。きっと私の告白で迷っていたのだろう。

その姿を見ていると、私の心臓が強く打った。

きっと私はこんなことで七架に苦しんで欲しくないんだろう。私は七架の席の隣にしゃがみこんで、言った。

「七架ごめんね。もう…いいよ。」

「藍香!?ご、ごめん。まだ返事考えてる途中で……」

「ううん。もういいよ。私のためにここまで苦しんで欲しくない。」

私の目からは涙が1粒、2粒とこぼれ落ちて行った。

「七架。これからも友達でいてね!」

私はそういって、泣きながらその場を走り去った。

私は昔、七架とよく遊んでいた公園に着いていた。私は草むらにうずくまり、泣き崩れた。

どのくらい経った頃だろうか。後ろから声が聞こえた。

「やっぱりここに居た。」

七架の声だった。

私は七架に泣きつきたい思いを押し殺して言った。

「ごめん。今は1人にさせて。明日にはもう戻れると思うから。」

七架は多分友達のままを望んでいる。ここで私が元に戻ればきっと今まで通りになる。だからここは離れてくれるだろう。私はそう思った。

しかし現実は違った。

七架は私を後ろから抱き、言った

「藍香を1人になんてさせないよ。私を好きな気持ちをうやむやにさせるなんてそんなこと、させない。」

「で、でも!七架は今まで通りを望んでいるんじゃないの!?」

「藍香、こっち向いて?」

そう言われるがままに私が後ろを振り向くと、

ーーーちゅっ。

「なっ、何を///」

「私も藍香が好き。もちろん恋愛的な意味で。私は藍香と友達として居たいんじゃない。1番藍香と楽しめる関係でいたいの。」

「七架……」

私はここで気づいた。私も七架と恋人になりたかった訳じゃない。七架と幸せに過ごしたかっただけだと。ここで初めて七架と心から繋がれた気がした。

「じゃあ、これからも、その、よろしくね?七架」

「こちらこそ、よろしく。藍香」


私は七架を必ず幸せに、ううん。七架"と"必ず幸せになる。


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