第12話


「こ、ここにはいるの?」

 さっきのコレクションの部屋だけだとおもっていたが

 食堂の床にも金と宝石があしらわれている。


「床がデコボコしてるぜ」


「お父様。だから言ったではあしませんか。

 このような模様にするのは客人が困ると」

 リリィが文句を言ったが屋敷の主はまだ反省していない。


「そうかな~。やっぱり銀にしたほうがよかったかのぅ」


「皆様。おきになさらず。席にお着き下さい」

 リルフに促されながら男はそっとアリアに耳打ちした。

「あれ冗談で言っているようには見えないぜ。

 リルフさんよりもあの主人さんを何とかするべきだったんじゃね?」


「まぁね」

 女も内心そう思ったが自分の出る幕ではない気がする。

 こうなっては姉妹の力に任せるほかないと思うだった。


「では宴の始まりじゃ」

 これには姉妹揃ってため息をついた。

 気を取り直してリリィが料理の説明を始めた。

「まず一品目でございます。『貝の蒸し焼き』この貝はこの地方でしか取れない特産でございます」

 言い終ると同時に数人の使用人達が皿を運ぶ。

 さらに六品目までの説明がだらだらと続く。

 これが貴族の食事風景とは知るつつもやはり飽きてくる。


「この解説っていつまで続くわけ?」

「食事出そろうまでだろ。ほら、話してる場合じゃないぞ」

 そして最後にデザートとして

「うちの料理人自慢のラニザーレでございます。どうかご賞味あれ」

 一般的にデザートと言えば片手で持てるくらいの皿でだされるのだ。

 今回の物は両手でやっともてるくらいの代物だった。

(今までで精一杯だってば。これだけ食べるのは無理無理っ)

 そんな心の叫びをひた隠しなんとかひと皿目の最後の一口を飲み込んだ。


「御苦労さん」

「なんであんたは平然としてるのよ」

「食べる量が違うからな。よっと」

 お頭は3品目に出てきた料理に手を伸ばした。

「ああ、それはおいしゅうございますわね」

「この大皿は凄いよな。

 自分の前にある皿以外は触れないほどデカいのは初めてだよ」


「そうでしょう。この地域でも我が家は一番の広さを誇りますから」

「へぇ」

 大皿から小鉢に移し替えるなどいろいろ試してみたり組み合わせてみたりと

 試行錯誤をしているうちにほとんどのサラが空っぽになった。


「すごいものだ。これを食べることは数年間いなかったのだがな」

「お父様。そろそろ皆様を寝室にご案内しないと」


 女は呆気に取られるばかりだが、

 地獄のような大食い時間から解放されることになった。

 4組の靴音が館内を響かせながら客人用の部屋へと向かう。

「では明日に備えてお二人ともおやすみなさいませ」

「リリィさん。リルフさんもお休みなさい」

「では失礼いたします」

(さて、パーティも終わったし明日に備えてねよっかな~)

 ここでお頭が気になることを言った。

「そういえばお前のパートナーはどうしたんだ? 主の悪意を吸い取ってからずっと表に出してないだろ」


「ああ~。レイのこと忘れてた」

「相棒忘れてどうするよ。とにかく俺も寝るから喧嘩は部屋の隅でやってくれ」

 お頭はそう忠告した。まぁ騒ぐのはどちらかと言えばレイのほうだから神のほうに言ったところで意味はないのだが。

「おい。あんたも少しくらいは考えてくれても……」

 男はベットに入り込んで数十秒で寝息を立て始めていた。

(あはは。寝るの早すぎだって。

 こっちまで眠くなるじゃないか)

 片側のベットに横になり一人ごちる。もちろん小声で。

「仕方ないよな。今日はいろいろあったしレイに謝るのは明日でいいか」

 結局男同様数十秒で意識を手放し、深い眠りに落ちて行った。



 空がうっすらと明るくなるころ、

 約8時間の睡眠をえた2人組がこの屋敷の人々に囲まれていた。

「これがお約束の馬です」

「本当に良い馬を用意してくださってありがとうございます」

「皆様。どうかご無事で」

 暖かい言葉を胸に2人は館を後にした。


 このとき性格を矯正したリルフは、

 その後屋敷のあるさびれた村を国有数の都市にしたと

 国じゅうに名が知れ渡ることになるのだがそれはまだ先のことである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

霊神物語 朝香るか @kouhi-sairin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ