閑話 ローワンと???達と
静まり返った様子の冒険者ギルドの執務室。
中には、数人の影。
誰一人喋らず、普段は明るい雰囲気のこの部屋が、今は異様な空気を放っている。
そんななか……
ガチャ
入ってくる一人の男。
その男は、この異様な空間に臆することなく言を発した。
「よぉ、ギルマス。それにお偉さん方。俺を呼び出すとは、何の用だい?」
その言葉に、一人の若者が声を上げた。
「貴様、誰に向かって口を聞いている?」
「お前こそ、主人の客に何のつもりだ?」
「やめなさい、ロイク。」
ソファーに座る一人の老人が、いきり立った若者に静止をかける。
「しかしっ!」
「私はやめろと言ったんだよ?」
「……はっ。」
「済まないね。彼は、君の事をよく知らないんだよ。」
「いいさ、餓鬼のやることには目を瞑ってやるのが
「ありがとう。……それでは、ここに呼んだ意図を話したい。座って貰ってもいいかな?
「勿論だとも。ソペリエル・ハニエル
教皇。世界最大の宗教組織【明神教】のトップにして、アルコン教国国主。
齢60を超えてもまだ健在の、正真正銘の教皇である。
「お二人も宜しいか?」
「問題ない。」
「勿論です。」
応えるのは、二人の男女。
片方は浅黒い肌を持つ、厳しい顔をした長身の女。
もう片方は、柔和な表情を浮かべる好々爺然とした人間。
「まさか、こんな豪華な面子が揃うとはねぇ。緊張しちまうよ。」
「嘘をつくならもう少し真面な嘘をつけ。そなたは世界各国の王族の前でも飄々としていただろう。」
「冗談だよ、冗談。相変わらず堅苦しい性格してんねぇ、魔王国の参謀様は。」
魔王国。それは、魔族を束ねる王、魔王が治める国にして、魔族達の住処。
かつて魔族と人間による大戦では、戦地にもなった国である。
そして、この女の名は魔王国の参謀、フェレス・オロバス。
「ほっほっほっ、ローワン殿もお変わり無い様じゃの。」
「そういうあんたも、70を超えてるとは思えねぇ元気さだな?宰相殿。」
世界初、勇者召喚に成功した国、オリオン王国。その宰相として、70を超えた今でも現役のプロモス・オデュッソス。
「ローワン、取り敢えず話を聞いてくれ。俺の手には負えねぇ。」
そして、ヴァスカの街の冒険者ギルドのマスター、ダラス・ライオネル。
「分かったよ。で、話ってのはなんだ?」
「ええ、貴方が指導している子供達についてです。」
「彼奴らの話ねぇ。……で、なんだ?」
「実は…………。」
「……なるほどなぁ。」
煙草をふかしながら、ローワンは呟く。
「初代聖女の隠し子に、古代の魔王の先祖返り。それに加えて神話の時代の勇者の唯一の直系、ねぇ。」
「信じられないかもしれませんが、これらは全て事実です。」
「いや、信じるさ。あれ程の才能、寧ろ納得したよ。……で、それを俺に聞かせて、あんたらは俺に何をして欲しいの?」
「何も。」
「あ?」
一瞬、ローワンの思考は止まり、次いでフェレスに疑問顔を向ける。
「そなたは、今まで通り彼女達の教育係を引き受けて置いて欲しいのだ。」
「そりゃまたなんで?」
「元々は、我々でマークはしていたのだが、あまり目立った動きをすれば厄介なことになる。だが、そなたが彼女達についていてくれるのなら何も問題は起きん。」
「……俺の事を知ってるのは各国の王族やその護衛のみで、実力も申し分ない。加えて、
「まぁ、そういうことじゃの。儂らも、彼女達には自由に生きてもらいたいんじゃ。過去のしがらみで、歳若い少女達を縛りたくは無いからの。じゃが……、」
言い辛そうにするプロモスに、ローワンはバッサリと言い切る。
「それに納得できないものもいる。」
「……悔しいが、その通りじゃ。ある程度は抑えられるじゃろうが、全てを抑え切れるとは言い切れん。」
思案顔で上を向き、加え煙草を揺らすローワン。
「……ま、元々やることと変わりはねぇんだ。引き受けるさ。」
「ありがとうございます。」
「感謝する。」
「有難い。」
煙草をふかしたローワンは、三人へ問いかける。
「今までの話は、あんたらんところの阿呆共が暴走するかもって話だよな?」
「ええ、そうですが……?」
「……一応聞くが、
ズンっ!!!
瞬間、広がる威圧感。圧倒的な
一瞬にして、場の空気を掴むローワン。
歴戦の兵である三人が、一瞬硬直してしまうほどの威圧を一瞬にして吹き出したローワンに、三人は漸く声を上げる。
「勿論です。貴方の目的も知っていますし、何より貴方への対抗手段など私は持っていない。」
「その通りだ。そもそも、あの世界会議に出席していたものなら、そなたに喧嘩を売ることの無謀さを知っておる。」
「一騎当千、どころか文字通り一人で国を落とせる男へ喧嘩を売る訳もありますまい。」
口々にローワンへ敵対心は無いと言う三人に、ローワンは、威圧を消すことで答えた。
「……なら、いい。」
「御理解感謝します。貴方に敵対されては我々にできることはありませんからな。」
「然り。単純な強さだけでもそなたに勝てる者など限られておるのに、本気を出されてはかなわん。」
「【無貌】とはことを構えるな、とおしえを残している国もあると聞きますしの。」
「いやいや、言い過ぎでしょ。」
呆れ顔のローワンに、三人は真顔で返す。
「貴方の能力を考えれば、当たり前のことでは?」
「然り。我らの知らぬ所にも手を回していそうだしな。」
「どこにあなたの手が届いているのかも分からないというのに、敵対など荷が重いのじゃよ。」
「そうかい。それなら、いいさ。」
「それでは、よろしく頼みます。」
「私からも頼もう。」
「では、私も。」
「おう、任せときな。しっかりと責任もってやってやるよ。」
「それでは。」
三人が去り、ギルマスも仕事に戻り、部屋の中にはローワン独り。
「……まぁ、
ポツリとそう零し、ローワンは部屋を出ていった……。
元白魔術師のオールラウンダー、少女パーティーの教育係に任命される 碧海 @aomi05
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