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頼みがあると切り出したのは、パーキングエリアでソフトクリームを舐めていたときだ。
隣に座るほーさんが、視線だけツヨシに向ける。冬に足を踏み入れているこの時期に冷たいデザートを買う人は少ないみたいで、これでもかと巻き上げられた白い塔の先っちょが、ほーさんの鼻にくっついている。
「車、預かっててくれない?」
手術は無事に終わり、ほーさんはその日のうちに帰ってきた。さすがにすぐに寝息を立てていたけれど、次の日からけろりとバイトに立っていたから恐れ入る。店長はぷりぷり怒っていたけれど、小森さんだけはほーさんの顔色の悪さに気づいて、鉄分ドリンクを奢ってくれたらしい。
「車って、あれ?」
ほーさんがプラスチックのスプーンで車を指す。びゅう、と吹き付けた北風に背中を丸めながら、ツヨシはクリームにかぶりつく。
「そう。寮に入れることになったんだけど、駐車場がないみたいでさ」
正確には、あるにはあるが、月額五千円かかる。そこらの貸駐車場よりはずいぶん安いけれど、削れるものは削りたいし、何より職場は、寮のすぐ裏手の工場なのだ。遊ばせておくのももったいない。
ほーさんのために入った会社だけど、結局ツヨシはそのまま就職することにした。大して深い理由はなくて、新しいことをはじめてみたい、そんなくらいの気持ちだった。
「本当に就職するんだ」
「まあね」
「アットホームな職場って、ブラック企業の隠語らしいよ」
「知ってる」
どんどんとけるソフトクリームを、コーンごとまとめて口につっこみながらツヨシは頷く。ほーさんはまだ、上のクリーム部分で手間取っている。
「仕事、つらくなったら連絡するから、迎えに来てよ」
ほーさんは返事をしなかった。ツヨシはぼうっと駐車場を眺めた。よく晴れた平日昼間のパーキングエリアは、大型トラックや観光バス、ファミリーカーにスポーツカー、色も種類もさまざまな車がひっきりなしにやってくる。このひとつひとつに、家族だったり、ひとりだったり、あるいは友人、恋人、上司と部下、行きずりの同行者、もしかしたら、まったくの他人同士、なんて関係が詰まっているのだ。自分と、ほーさんのように。
「気が向いたらね」
ほーさんは、明るい声でそう言った。しずかに雪が降り始めていた。
月五千円の出費はやっぱりつらい。ツヨシは今も、ほーさんからの電話を待っている。
パーキングエリアで生まれたい 湾野 @wnn
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