そうして君は死者の軍を――群れを率いて戦場を征く。

 此方の死者を率い、彼方あちらの生者がいる方へ。

 声無きものを率い、まだ残る声の響く方へ。

 数を増し勢いを増し。

 押す波があれば圧し返すように。

 引く波があれば追い潰すように。

 死者に声はないが怒涛となる。

 無念、無声の群が波濤を成す。


 君は戦場ここに君臨する。

 威容の馬の引く絢爛たる輿の上、座したままで。

 

 もとより彼我には戦力差があった。不利なのは此方で、有利なのが彼方あちらだ。だからこそ彼方も躊躇いなく決戦の布陣を敷いた。だが、今や敵軍は総崩れだ。君の存在は知っていたはずなのだが、しかし、それでも、言葉でだと知っているのと、こうして目の前で引き起こされる惨禍との間には、余りにも隔たりがあった。要するに、彼らは読み違えた。君という存在が、如何程の何を、波を、引き起こすのかを。


 君は戦場を塗り替える切り札だ。だから君は狙われる。

 今に始まったことではなく、ずっと狙われ続けている。


 あたりまえに狙われている。

 刀に、槍に。それが届かぬならば、弓矢に、弾丸に。

 あたりまえに晒されている。

 斬らんとする、刺さんとする声に。そして撃たんとする声に。

 あたりまえに、君が。

 そして今や、更に苛烈に。

 

 おれはそのあたりまえを許さない。


 君はひとつ手をひらりと振るだけだ。

 それだけでおれが、刀を、槍を、叩き落とす。

 君は振った手をひらりと戻すだけだ。

 それだけでおれが、弓矢を、弾丸を、弾き飛ばす。


 君に誰が触れることも許さない。


 死者の軍の成す波濤の上、船のごとく揺れる輿の上。

 君に降りかかる全てを振り払う、そのためだけにおれはいる。

 君もおれも、そのことをよく知っている。

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