第4章・プラプラ宇宙に行く
第10話・「ライバル登場で、ちょっくら宇宙にでもプラプラ行ってみるっス」〔とりあえず完結〕
モフモフ群島の中にある【観光島】に一人の少女がやって来た。
「ここが、島で一番人気の観光名所かニャ?」
少女と一緒にいた、観光課の職員が言った。
「数年前に比べて観光客が増大して、それに伴って心無いラクガキも増えてきてしまって」
黒猫耳のカチューシャをして、チェック柄の短いスカートのお尻に付けられた黒猫尻尾が生きているように揺れている。
少女の顔や手足には……『
猫耳少女は、観光名所の建物にされたラクガキを眺めて言った。
「これはヒドいニャア、こんな大量のラクガキははじめてだニャア」
猫じゃらしのような魔法グッズを持った少女──ラクガキ魔法師『モジュモジュ』が、観光課の職員に訊ねる。
「このラクガキを、消せばいいんだニャ……報酬は、先に伝えた通りだニャ。お仕事をすれば、報酬の対価が発生するのは当然だニャ」
「はい……わかっています、みんなで話し合って覚悟はできています。ラクガキを消してください」
「何人の金運を差し出すニャ?」
「わたしを含め、五人です」
「契約成立だニャ」
モジュモジュが、軽やかに踊りながら、猫じゃらしでラクガキを撫でるとラクガキは、ワタアメのように猫じゃらしの魔具に絡め取られ壁や天井から離れた。
すべてのラクガキを、絡め取ったモジュモジュが言った。
「書いた主人のところにもどるニャ! ラクガキをした本人の体に張りつくニャ! ニャラレバ!」
ラクガキが、書いた本人に向かって四方八方に散っていく。
「ニャラレバ……今日のお仕事終わりニャ……お仕事料の徴収期間ニャ」
モジュモジュは、ポシェットから取り出したソロバンを弾く。
「半年にゃ、今から半年間……五人の金運をもらうニャ」
「そんなに長い期間貧乏に。せいぜい、二~三日くらいかと」
「あれだけの量のラクガキを処分したら、それなりの報酬額が発生するのは当然ニャ……金運を払うのがイヤなら、ラクガキを元にもどすニャ……ニャラレバ」
「わ、わかりました! 金運を持っていってください」
「ニャかれば、いいニャ……これで宝クジを買えば、大当たり確定ニャ」
モジュモジュの肩に、手紙をくわえたヌイグルミ鳥がとまり、モジュモジュは手紙を受け取り目を通して叫ぶ。
「ニャんで、あたしがプラプラの弟子の世話をしニャいといけないニャ! あのヌイグルミ魔女、最近調子に乗っているニャ!」
モジュモジュはネコのごとく【ヌクヌク島】に向かって走り出した。
【ヌクヌク島】──プラプラは、家の前で完成したヌイグルミのロケットを満足そうに見上げた。
「裁縫して一からロケットを造るのは大変だったけれど、立派なヌイグルミのロケットが完成したっス……なまらパネェ」
「師匠、本当に宇宙にこれで行くんですか?」
「宇宙旅行は、小さい時からの夢っス」
プラプラは、表紙にロケットの絵が描かれた。アチの世界〔現世界〕から持ち込まれた絵本を差し出して見せる。
「すでに、アチの世界からお取り寄せした〝宇宙服〟というモノも用意してあるっス」
「師匠が宇宙旅行に行っている間、ボクはどうすればいいんですか? 大鍋を操作して海を渡れるのは師匠だけですよ」
「心配ないっス……留守中のコトは、ちゃんとある人物に頼んであるっス……ほら、海の上を必死に走って来たっス」
プラプラが指差した先に、海上を猛スピードで走ってくる、モジュモジュの姿があった。
「ニャニャニャニャ!」
プラプラたちの前まで全力で走って来た、モジュモジュは息を切らす。
「はぁはぁはぁ……自由奔放すぎるニャ、なにが宇宙旅行に行ってくるから、あとのコトを頼むニャだ」
「なんだかんだ文句を言っても、来てくれたっスね」
「誤解するニャ、あんたとあたしは永遠のライバルニャ。どうして、あんたが誰に聞いても。五大術師の一人に選ばれているニャ!」
「人徳っスね……なまらパネェ」
「そういうところが、ムカつくニャ……ニャラレバ」
モジュモジュが、プラプラの弟子のヌギヌギを眺める。
「こいつかニャ、留守中に預かって欲しい弟子と言うのは……名を名乗るニャ」
「ヌギヌギです」
「ふ~ん、どこかパッとしない弟子ニャ……本当に、あたしの家系に伝わる秘技、
「遠慮なく鍛えて、あっしが帰ってくる前に秘伝を会得させておいて欲しいっス」
「溺れ死ぬかも知れないニャ」
「その時は、できが悪い弟子だったというコトで、諦めて墓標をたてるっス」
勝手に進行していく、自分に関係した会話に慌てるヌギヌギ。
「ち、ちょっと待ってください! お二人で、なにを話して勝手に決めているんですか? ボクの意志は?」
「関係ないっス……なまらパネェ」
「関係ないニャ……ニャラレバ」
「そんな、いったいボクに何をやらせるつもりなんですか?」
「見ていなかったっスか、モジュモジュの見事な海上走行を……あれを、覚えてやってもらうっス」
「基本は簡単ニャ、片足が沈む前にもう片方の足を出してを繰り返すだけニャ……今まで教えても、あたし以外にできた者は誰もいないニャ……みんな海の
「ムリムリムリ、だいたいボクが海の上を走る利点なんて……あっ」
「気づいたっスか、移動に大鍋が使えない時も、走って他の島に行けるっス……あっしが、宇宙旅行から帰ってきたら。使いっ走りをしてもらうっス……そろそろ、出発の準備をするっス」
数十分後──銀色の宇宙服を着込んだ、プラプラが家の中から出てきた。
「なまらパネェくらい、暑いっス」
「師匠、帰ってくるのはいつですか?」
「明日かも知れないし、数十年後かも知れないっス」
「数十年も待てませんよ」
「しかたがないっス……アチの世界の〝アインシュタイン〟という偉い人が言っていたっス『宇宙では地上と時間の進み方が違う』みたいっス」
ヌイグルミのハシゴを上って、プラプラは宇宙船に乗り込む。
「それじゃあ、行ってくるっス」
ロケットのハッチが閉じられ、フェルトの炎を出しながらヌイグルミのロケットは上昇していく。
ロケットは青空をバリッと突き破って宇宙へと、飛び出して行った。
見上げていたモジュモジュが呟く声が聞こえた。
「空に穴が開いたニャ……ニャラレバ」
空に開いた穴は、空が夕焼け色に染まりはじめると、自然に閉じた。
それから数百年後……異界大陸国レザリムスの天文学者たちの天体観測で、宇宙にヌイグルミの惑星や恒星が次々と発見された。
☆「楽しくお仕事 in 異世界」中編コンテスト応募要項の二万文字を越えるコトができたので、ここで【とりあえず完結】するっス
ご拝読ありがとっス……なまらパネェ
「あたしの出番これニャけかニャ! ニャラレバ」
「お客さん……あまり可愛くないヌイグルミいかがっスか?」ヌイグルミ魔法師 楠本恵士 @67853-_-
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