第9話・「たまには、なまらパネェ復讐にもつき合ってやるっス」
次の日──ヌギヌギは一人で、島の北側にある洞窟にやって来た。
民宿の旦那さんから「島の北の洞窟には岩に鎖で縛られた、かわいそうなヌイグルミがある」と、聞かされてヌギヌギは北の洞窟にやって来た。
確かに洞窟内の鍾乳石に、人魚のヌイグルミが鎖で縛られていた。
鍾乳石の近くには、巻き貝が一個転がっている。
縛られている人魚のヌイグルミが、ヌギヌギと師匠のプラプラにしか聞こえない声で哀願する。
《助けてください、悪人に鎖で縛られてしまって。元の姿にもどしてください》
ヌイグルミ人魚の目から、ビーズ玉の涙が一粒こぼれる。
(あれ? なんでボクが、ヌイグルミの魔法を解けるって知っているんだろう?)
《早く鎖を外してください、体に鎖が食い込んで痛い》
ビーズ玉の涙を流して哀願する、人魚のヌイグルミを縛りつけていた鎖をヌギヌギは外してしまった。
《元の姿にもどしてください……悪人が来る前に》
人魚の声には、不思議なチャームのような力が宿っていた。
(この人魚のヌイグルミを助けてもいいのか?)
そう思いながらも、ヌギヌギはヌイグルミの金貨を元にもどす要領で、ヌイグルミの人魚を生身の人魚にもどした……ポンッ。
本来の姿にもどった人魚の表情が、邪悪に満ちた顔つきに変わる。
「ヌイグルミから元にもどしてくれて、ありがとうよ……このマヌケ……あはははははっ」
身をひるがえして、海に飛び込み顔を海上に出して嘲笑う、邪悪な人魚。
「あはははははっ、これで、あたしをヌイグルミに変えて封印した。あの憎いヌイグルミ魔女に復讐ができる……手はじめに、北の漁民たちの生気を奪い取って無気力にしてやる」
海の中から聞こえてきた魔性の歌声に生気を奪われた、ヌギヌギはその場に倒れた。
虚ろな視界のヌギヌギの目に、岩陰から現れた海の男のヌイグルミが映る。
海の男のヌイグルミが、ヌイグルミの
「マヌケな弟子だ、師匠がヌイグルミに変えて封印した魔性の人魚を助けるとはな……オレにかけられたヌイグルミ魔法も解いてもらおうと思ったが、その状態じゃムリみてぇだな」
海の男は、にぎったまま一体化した柔らかい銛で、グイグイとヌギヌギの頬を押しながら話し続ける。
「あの魔性人魚は、オレの古くからの知人でな……オレ同様に、おまえの師匠にヌイグルミにされた恨みを抱いている……もう一ついいことを教えてやろう、おまえの師匠は泳げない。
人魚がヌイグルミ魔女を海中に引きずり込んで、溺れさせる……ひっひっ、魔女が死ねばオレも元の姿にもどれる」
卑屈に笑う海の男のヌイグルミ頭が、男の後方から振り下ろされた狩猟ハンマーの一撃で凹む。
「げふっ」倒れた、男の背後にハンマーを持った旦那さん、女将さん、師匠のプラプラが立っていた。
女将さんが気絶した、海の男のヌイグルミを両手で捕まえて言った。
「うちの旦那が、迷惑かけたね……まさか、肉の為に悪人の策略に協力するとは。
これからは、ちゃんと旦那に肉を食わせるから。うちの旦那を許してやっておくれ……根は悪い人じゃないんだ」
プラプラは、海の男のヌイグルミに〝動けないヌイグルミ魔法〟を再度かけてから、旦那さんや自分の耳穴に詰めている
「なまらパネェ修行が足らないっス、邪悪な人魚のウソに惑わされて……弟子の失態は、師匠がぬぐうっス」
そう言って、プラプラは洞窟の外に広がる砂浜へと、大鍋に乗って出ていった。
海上では、上半身を海の上に出して腕組みをした魔性人魚が、薄ら笑いを浮かべながらプラプラの方を見ていた。
人魚が言った。
「前は油断したが、今回は海に引きずり込んで溺れさせてやる……あはははははっ」
勝利を確信して高笑いをする人魚の背後から、被さってくる尾ビレの黒い影。
「へっ!?」
振り返った人魚に向かって振り下ろされる、一角白鯨の尾ビレ。
白鯨の一撃を受けて、空中に舞い上がる魔性人魚。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
砂浜に落下した人魚に向かって、プラプラはすかさずヌイグルミ魔法をかけて、動けないヌイグルミに変えた。
《てめぇ! この野郎! 元にもどせ!》
プラプラは一角白鯨に向かって、お礼の笑みを浮かべると。
ヌイグルミになった人魚を持って洞窟へともどり、女将さんと一緒に鍾乳柱に海の男と人魚のヌイグルミを鎖で縛りつける。
《てめぇ、魔女ふざけるな! 鎖を外せ!》
《てめぇのマヌケな弟子を利用して、いつの日か復活してやるからな!》
プラプラは、取り出したヌイグルミの骨つき肉をかじりながら。
「なまらパネェ」と言った。
ヌギヌギは、もしかしたら師匠はスゴい人かも知れない? と思った。
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