おまけ:お蔵入りにした最終回

第73話:2つの指輪

「ところで、リーディットさま」


「どうしたの、クロリアナ。急にあらたまった顔しちゃって」


 クロリアナは急にいたずらな笑顔を見せると懐から一通の手紙を取り出した。


「これ、シルヴァンのとある・・・連隊長から預かった手紙です。リーディットさまに渡してほしいんですって」


「ちょっと、クロリアナ、それ、すぐに渡しなさいよ」


 そう言って私がその手紙に手を伸ばすと、クロリアナは意地悪そうな笑顔を浮かべ手紙をもった手を天にむけた。私はそんなクロリアナの態度を見て、思わず顔を膨らませる。


「冗談ですよ、リーディットさま。怒らない、怒らない」


 クロリアナはそう言ってくすくす・・・・笑って私に手紙を手渡した。ほんとクロリアナって、この手の話になると急に意地悪になるのよね。私はそう心の中でブツブツ文句を言いながら手紙の差出人を確認する。


 差出人はまぁ・・予想通りなんだけど、なんだろう、この手紙、綺麗に、というより、厳重に封がなされている。まさか、ね。


 私は、自分勝手で自分の都合最優先な妄想を浮かべながら、ショルダーバックの中からペーパーナイフを取り出し、丁寧に封筒を開封して中から手紙を取り出した。


 そして私がその手紙に目を通そうとした瞬間、私の視界には満面の笑みを浮かべたクロリアナが飛び込んできた。


「ちょ、ちょっと、クロリアナ。少しだけ私を一人にしてくれない?」


 私が、照れ臭そうに、そう伝えるとクロリアナは残念そうな顔をして「はいはい」と返事をすると、ゆっくりと席を立ちその場を離れてくれた。まったく油断も隙もあったもんじゃない。こんな手紙を読んでいるところ、恋愛大好きクロリアナに見られたら一生ネタにされてしまう。ちゃんとクロリアナが店を出ていくまで、油断しちゃダメそうね。


 私はそんな細心の注意を払ってクロリアナが店から出ていくのを見送ると、一人テーブルに残り、タルワールからの手紙を目一杯・・・の期待をこめ、ゆっくり読み始めた。


 手紙を読み進めた私は、おおきく2つのことに驚いた。1つはタルワールが信じられないくらい達筆だということ。とにかく字がうまい。王宮でみっちり叩き込まれたはずの私より字がうまい。さすがにこれは私の自信がなくなるレベルのうまさであった。


 そして、もう1つ驚いたことはその内容だ。つまり、その手紙の内容は、1年後に予測されるのアルマヴィル帝国とランカラン王国の戦争に対して、シルヴァンの独立勢力とクテシフォンの独立勢力の協力関係を提案する内容であったのだ。


 そして、なにより許せなかったのは、私の期待していた答えが、そこには何一つ書かれていなかったのだ。その事実に気がついた私の手紙を持つ手はわなわな・・・・と震え、理不尽な怒りの感情が私の心を支配していった。


「あらあら、連隊長もつれないですね」


 急に後ろからクロリアナの声。なんてことはない、席をたったクロリアナは、いつの間にか店に戻ってきて、私の後ろに回り込んで、手紙をちゃっかり盗み見していたのだ。


「ちょっと、クロリアナひどいじゃない。じゃなくて、これさすがに酷くない?これじゃ、私、かわいそうじゃない?」


 私は瞳に今にもこぼれそうになる涙をいっぱい貯めて、クロリアナに視線を向けた。そして、私は、そう言う自分が涙声であったことに気がついたものの、いまさらクロリアナに自分の感情を隠すことさえできずにいた。


「まったく、リーディットさまがそそっかしいのは相変わらずですね。ちゃんと封筒の中身、全部確認しましたか?」


 そう言われて私は封筒の中身を覗き込むと、そこには藍玉パライバトルマリンをあしらった純金製の指輪が入れられていた。私は黙ってそれを取り出すと、ショルダーバックに入れてあった革紐を取り出して指輪に通した。そして、その後、その簡易的なネックレスを首からかけると、なにごともなかったかのように胸元にそれをそっとしまい込んだ。


「あらあら、リーディットさま。その指輪をつけなくていいんですか?」


「何言ってるの、クロリアナ。純金で藍玉パライバトルマリンなんかついた指輪をして外を歩いていたら、すぐにお金持ちと勘違いされちゃうじゃない。その前に、こんな大切なものをやすやす・・・・と指にはめられるわけないじゃない」


 私がそういうと、クロリアナは再びくすくす・・・・と笑い始めた。


「リーディットさま、ごめんなさい。私、その手紙の前に、こっちを渡してくれと頼まれていたのを忘れていました」


 精一杯、ほんとうに、精一杯、笑うのをこらえながら、クロリアナは懐からリングケースを取り出して私に差し出した。私は、いや、さすがの私も、そのリングケースに何が入っているかを、何を意味しているか、そして、私がちゃんと自分の意志を伝えられていたことを一瞬で理解することができた。


 私は、顔を真っ赤にしながら、クロリアナからそのリングケースを受け取ると、中に入っていた指輪を、2つの輪を重ね合わせることによって形を成すギメルリングを左手の薬指にはめる。


「あらあらリーディットさまも気がはやいですね。右手の薬指ではなく、左手の薬指ですか?」


 そうクロリアナに指摘され私の顔はさらに赤くなったことを自覚したが、私に残った最後の冷静な部分が、私になにかの違和感を感じさせた。


「ちょっと、クロリアナ。この指輪サイズがぴったりなんだけど、タルワールはなんで私の指輪のサイズを知っているの?」


「そりゃそうですよ。私も一緒についていって指輪を選んだんですから。サイズとリーディットさまの趣味は、私がちゃーんと教えてさしあげました。そして、そのギメルリング、西洋のものでナカナカ手に入らないもの・・なんですよ。よかったですね、とってもお似合いですよ」


 私はクロリアナのこの言葉を聞いて初めて、クロリアナの企みをすべて察することができた。つまりクロリアナは、わざと手紙とリングケースを渡す順番を入れ替えたのだ。もちろん、私をからかうために。


「ちょっと、クロリアナ。なんでそんな意地悪するのよ!」


 私はそう抗議したもののクロリアナは私の頭をぽんぽん・・・・と2回たたいてこう続けた。


「そんなことはどうでもいいですから、そのリングケースに入っている手紙をちゃんと読んでくださいね。ちゃんとリーディットさまが希望した答えが書いてありますよ」


と。


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第73話補足:世界三大奇石

https://kakuyomu.jp/works/16817139557982622008/episodes/16817330650090312765

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