第6話
ある海岸に、一人の少年が降り立った。ピーターパン・グレートである。乙姫様の接待をしこたま受けた彼は、帰りに「絶対に開けてはいけない」との注意を受けたうえで、小箱を渡された。
そんなわけないだろう。と、彼はすぐに小箱を開けると、もくもくと白い煙が出てきて、そして、しばらくすると、消えた。それだけだった。
時が閉じ込められているその箱を開けると、竜宮城に滞在していた歳月が一気に押し寄せてくるのだが、年をとらないピーターパンにとっては何の影響もない。
ただ、そんな大量の煙をいったいどうやってその小さな箱に閉じ込めていたのだろうか、と不思議に思い、そして結局何も入っていないことにも首をひねりながら、とりあえず一度、家に帰ることにした。狼に吹き飛ばされてしまった、わらの家だ。
彼が自分の家があったはずの高台に戻ると、そこにはうっそうとした灌木が生い茂っていた。いつのまにそうなったのか、不思議には感じたが、なぜか急速に疲労と眠気に襲われた彼は、その茂みをかき分けていく。
たどり着いた先には、巨大な要塞があった。石造りのその尖塔形の建築物の前で立ち尽くしていると、二階の部屋らしき場所の窓が開く。
「やあ、君もピーターパンなのかい?」
見たことはない。
だが、それが何らかのピーターパンであることは、肌で感じられた。
「僕はピーターパン・グレートだ」
彼が叫ぶと、そうかい、と気のない返事をした見知らぬピーターパンは、階下を見下ろしながら手元にある髑髏の置物を撫でている。
よく見てみると、その建物の柱や門の上にはところ構わず、多数の髑髏が掲げられている。その形からそれは、人間の頭がい骨のように感じられた。
「ピーターパン・オリジンとスーパーピーターパンは知らないかい?」
彼が訊くと、一瞬だけ驚いたような顔をした目の前のピーターパンは、
「さあね」
と答え、周囲の髑髏を順番に指さしていく。
「その中のどれかだとは思うけど、もうずいぶんと昔のことらしいからね。僕は、直接は知らないな」
なんとなく予想はできていたため、そうか、とだけ答え、相手の反応を待つことにした。
その様子に呼応したのか、すぐににやりと笑みを浮かべた階上のピーターパンは、高らかと宣言するようにいった。
「さあ、戦いを始めようじゃないか。勝負は時の運。しかし、どちらが勝ったとしても、その時は敗者の肉を食べようではないか」
なぜ戦うのかはわからなかったが、敗者の肉を食べる、ということにはなぜだか共感を覚えた。
「なるほどなるほど、それが真の優しさかもしれないね」
「では、さっそく行こうか」
そのような会話を交わした二匹のピーターパンは、そのまま空へと舞いあがっていったのであった。
三匹のピーターパン、陸海空を席巻する 高丘真介 @s_takaoka
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